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社員もライセンスもない会社が6億円の資金調達。リスクだらけのスタートアップにコミットした理由とは ウェルスナビ 柴山和久氏 × STRIVE 天野

ロボアドバイザーによる全自動の資産運用サービスを提供するウェルスナビ社は、2020年12月22日に東証マザーズへ上場し直近の時価総額は1,000億円を超えています。その成長を2015年の創業期から支援しているSTRIVE。今回は、ウェルスナビ社 代表取締役CEOの柴山和久氏とSTRIVE 代表パートナーの天野が、出会いから上場までを振り返って対談しました。


上場したことより、市場がミッションやビジネスモデルを評価してくれたことが嬉しかった

天野:上場から3週間ほど経って、そろそろ落ち着いた頃じゃないかと思います。僕は投資先の上場はたくさん見てきましたが、当事者になったことはないんです。当事者としてどういうことを考えていたのかお聞かせください。

柴山さん(以下、柴山):これはおもしろい話じゃないかもしれないのですが、上場ってプロセスを始めたらベルトコンベヤーに乗っている感じで、スケジュール通りにやり切らないといけないんですよ。だから、上場後は「やっと上場以外のことができる」「事業をもっと成長させられる」と思ってました。ほっとしたというのが本当のところです。

天野:なるほど、事業に真面目なところが柴山さんらしいですね(笑)。上場したこと自体が嬉しいって感じではなかったんですね。

柴山:そうですね。やはり「上場した」ということより、株式市場が私たちのミッションやビジョン、事業やビジネスモデル、将来性を前向きに評価してくださった。「上場企業として市場に受け入れてもらえた」ということが非常に嬉しかったです。

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天野:実は、今日うちが2015年に投資したときの社内の投資委員会メモを持ってきたんですよ。それを見ながら答え合わせが出来ればおもしろいかなと思って。

柴山:おお! 初めて見ますね。

天野:当時の予測だと2020年のAUM(預かり資産)が4,000億円ぐらいなんです。まだサービスリリース前に作った予想としては、まあまあ良い線いってますよね。これを見ると(笑)。

※ 以下、STRIVEの投資委員会資料より抜粋

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柴山:昨年12月に預かり資産が3,200億円を突破したので、20%くらいのズレですね。2015年当時はSaaSやサブスクリプション等のビジネスモデルは今ほど存在しなくて、そもそも創業した時点で私はロボアドバイザーのこともフィンテックという言葉も知らなかったんですよね。

天野:投資の観点からは、マーケットが変わったというのが大きいですね。懐かしいです。当時先行していた米国のロボアドバイザー市場は約140億ドル(約1.7兆円)の運用資産規模があり、2020年には約2兆ドル(約240兆円)規模にまで拡大する等、資産運用市場の一角になると予想されていました。

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一方で、日本でもアベノミクスによる投資家の増加、減税措置(NISA)、投資一任の個人向け資産運用サービス(ラップ口座)の人気などニーズはあり、ロボアドバイザーの潜在市場規模は15~18兆円程度と予想していました。

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当時国内ではまだサービス提供者は少ない状況でしたが、米国同様に今後高い成長性が期待される市場であり、ウェルスナビは先行者メリットを取れる可能性が高いのではないか?というのがSTRIVEの見立てでした。

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リスクを取り過ぎじゃないかとも思った。リード投資家としてコミットしてくれたのは大きかった


柴山:天野さんは当時、事業の将来性をどう見ていたんですか?

天野:当時は米国でロボアドバイザーのようなサービスが使われ始めた頃で、現地に住んでる友人から「Wealthfront」(ウェルスフロント)や「Betterment」(ベターメント)等を教えてもらって、日本でもこういったサービスが生まれればいいなって思っていたんです。それが2015年の春で、柴山さんに会うちょっと前ぐらいですね。

日本でもロボアドバイザーみたいな新しい資産運用サービスをやるベンチャーないかなって頭の片隅で探していたんです。当時は既に他社が、資金調達も順調に進み、金融のベテランも揃えて先行していたのですが、すでに出来上がってる感があったのと僕がイメージしていたのは新しい金融機関ではなく金融の新しいネットサービスだったので。もう少しこれから一緒に切磋琢磨してゼロから新しいサービス作っていくことができる相手がいないかと探していたところで柴山さんに出会いました。

柴山:2015年の8月くらいでしたね。あの頃は「こういう事業を作りたい」という想いだけで、何もない状態でした。サービスもなければサービスをリリースするために必要な金融商品取引業や投資運用業等のライセンスもない。1人目の社員が入社したのが10月ですから、それまではチームもありませんでした。

天野:そうそう、だだっ広い紀尾井町ビルに柴山さんが椅子と机を1個置いて1人で座ってて(笑)。「なんでこんな広いの借りたの?」って聞いたらライセンス取るために必要だからって。

柴山:専用回線を引く等、金融業をやるための条件があるんですよね。そういうのができるビルは限られてて。無から有を生み出そうとしていたタイミングで天野さんに出会ったという感じです。

天野:柴山さんは今でこそ立派な経営者ですけど、当時は事業経験もなく起業するのも初めてでもちろん採用もしたことがなく、何もかもがゼロでした。でも、そうは言っても経歴を見れば東大、財務省、マッキンゼーと頭も良いし努力家ですし、すごい真面目。人を裏切ったりとか、怠けたりするタイプには見えなくて信頼できると思いました。これからどんどん吸収して、成長していく可能性が無限大にある人だなと。

特にフィンテックの場合、ライセンスの取得等コントロールできない部分も多く通常より時間とエネルギーがかかるので忍耐力が必要なのと、エンジニアと霞が関を同時にマネージするバランス感覚が求められるので、起業家にはより成熟さが求められると思っていました。

そこからはけっこう早かったですね。会ってからすぐ「資金調達の資料どうしますか」「一緒に作りますか」という感じで、共同投資家を見つけるために資料を持っていろんな銀行を回りました。

柴山:お会いしてすぐに出資していただけることになって。天野さんと堤さんの意志決定のスピードがものすごく速かったことを記憶してます。

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柴山:ライセンスを取るまでは、天野さんから毎日電話がかかってきましたよね。「金融庁どうですか? 何か反応ありました?」って。

天野:社内でこの案件をごり押ししていたんですよ。国内初のサービスでまだライセンスが取れてなくて実現するかも分からなかったので普通に考えれば数億円を投資するにはリスクあり過ぎじゃないですか。当時うちの社内でもちょくちょく進捗状況を聞かれて、最初は「いやあ、もうすぐ取れるんじゃないですか」ってかわしてたんですけど、だんだん説明が厳しくなってきて、けっこう柴山さんと同じ祈るような気持ちでいましたが(笑)、上手く行くまで諦めない覚悟でした。

柴山:金融庁と話し合いをして、事業計画を作ったら資本金が6億円ぐらい必要ということがわかったんですよね。審査では「資金以外の条件は満たしてます」と言われましたが、ライセンスがないと6億円の資金調達ができない。

天野:ライセンスがない会社に6億円の資金は出せない(笑)。

柴山:鶏が先か卵が先かという状況でした。もともとシリーズAの調達準備をしていたので、リード投資家が決まったら出資しますと言ってくださるベンチャーキャピタルとは数社話をしてました。でもマーケティング調査の結果を天野さんにお見せしたら、銀行系と組んだほうがシナジーが出るんじゃないかとアドバイスをいただいて。「銀行とタッグを組んだほうがお客さまの利用意向が高くなる」といきなり180度方向転換することになりました。

それで、「残りの3億円を共同で出資していただけるパートナーを探しに行きましょう」と言っていただいて。最終的にメガバンク系のベンチャーキャピタル3社から同時に出資していただけて、非常に綺麗な資金調達ができました。私にはそのような発想がなかったので、天野さんのリーダーシップのおかげです。

ベンチャーキャピタルはリスクマネーを投資して新しい産業を生み出すわけですが、ちょっとリスク取り過ぎじゃないかとは思いました(笑)。まさにリード投資家として、他のベンチャーキャピタルを巻き込んで「一緒にやっていこう」とリスクを取りながらコミットしていただいたことに感謝しています。

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ほぼ毎日の電話。振り返るとほとんどが組織の話だった

天野:これまでを振り返って、どんな苦労がありましたか?

柴山:組織ですね。私が初めての起業ということもあるのかもしれませんが、想定していた100倍くらい大変でした。例えば「50人の壁」みたいな話も、事前にわかっていたら先手先手でできることがあったと思うので。

天野:他人に言われても実感がないので、自分で経験してみないとなかなか理解しづらいですよね。

柴山:そう思います。起業家同士で話をしていると必ず「50人の壁」の話になります。そしてみんな知ってるのに、みんなぶつかって失敗する(笑)。組織の最大の強みが最大の弱みに変わる瞬間なので、引っ掛かりやすいんでしょうね。私たちの場合はそれが2017年ぐらいのことでした。

天野:電話等でいろんなこと話しましたが、振り返るとほとんどが組織のことだった気がします。

柴山:そうですね。電話とチャットでもうほぼ毎日。

天野:柴山さん電話がめちゃくちゃ長いから(笑)。組織の問題って答えがないので、いろんな会社に投資させていただいていろんな経験させてもらってますけど、やっぱり個々に事情が違うので、一緒になって真剣に考えるしかないですね。

ウェルスナビを支援させていただいて印象深いのが、柴山さんが想像以上に早いスピードで経営者として成長されてることじゃないかと思います。上から目線で言うわけではないですが、本当に何もなかったところから人一倍良くも悪くも色んな経験をされて成長されたことが嬉しかったです。

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天野:ただ、そうは言っても最初に柴山さんにお会いしたときに聞いた世界観には届いていません。まだまだこれから成長して会社を大きくして、このサービスを世に広げていってほしいです。

柴山:2016年7月にサービスを開始して以来、今年2月には預かり資産3,700億円まで拡大しました。しかし、「働く世代に豊かさを」という私たちのミッションを実現していくためにはまだまだです。お客さま一人ひとりの「老後2,000万円問題」も解決していかないといけない。私たちの預かり資産が伸びても、ミッションを実現したことにはなりません。

天野:はい、ミッションを実現するという意味ではまだスタートラインにも立ってないと思います。ウェルスナビは、やっぱり預かり資産1兆円を過ぎてからがスタートなんじゃないかなと思います。

柴山:そうですね。誰でも安心して利用できる、一種の社会インフラとしてのサービスを作る必要があります。今年はいよいよNISAに対応して、非課税のメリットを生かしながらお任せ資産運用サービス「おまかせNISA」が使えるようになります。上場したことで、そういう新しいサービス・新しい機能を作っていくことに、より一層フォーカスできるようになりました。早くスタート地点に立てるように頑張りたいと思います。

天野:世の中を変えていくための挑戦、やり切ってほしいと思います。ぜひ頑張ってください!

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