なぜ今、サプライチェーンリスクが重要なのか/ Resilire津田氏・STRIVE四方氏 #BRIDGE_Tokyo_Meetup

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本稿はベンチャーキャピタルが紹介する旬のトレンドやスタートアップを集めたセッション「BRIDGE Tokyo Meetup INTRO」で語られた話題をお届けします。11月実施のTokyo Meetup全セッションはこちらから。登壇希望のスタートアップはこちらからパートナーへご参加ください。

今回のINTROは、STRIVEのインベストメントマネージャー四方智之さんにお越しいただきます。特別ゲストは9月に増資を発表したResilire(レジリア)代表の津田裕太さんです。

津田さんは、災害などでサプライチェーンが途絶することで製品供給停止の損害を被っている企業を目の当たりにしてきた経験から、企業がBCM(事業継続マネジメント)とSCRM(サプライチェーンリスクマネジメント)への対応を効率化できるSaaSを提供しています。

ここ1〜2年は、「SDGs」と「ESG 投資」といったキーワードがちょっとバズワードっぽく使われるようになりました。SDGs は、国連が定めた社会や企業が達成すべき17つの目標で、ESG 投資はその目標を達成する手段となっています。その他にも、社会課題の解決を目的としたインパクト投資の言う言葉もよく聞きます。

ESG 投資には2016〜2020年の5年間で3,800兆円が費やされ、55%という急成長を見せる投資カテゴリです。その背景には、世界経済のレベルでESGを考慮しないことが政治的にもビジネス的にリスクだと考えられるようになったことです。さらには、国連が定めた PRI(Principles for Responsible Investment、責任投資原則)で、ESG を考慮した投資の提言がうたわれたことも影響しています。

近年では気候変動による事業へのインパクトが如実によって出てきており、これがさらに ESG 投資を盛り上げる要因の一つにもつながっています。

こういった気候変動による事業へのインパクトが出る前の段階からその影響範囲を把握し、影響が大きくなるのを防止し、また、平時から災害時に備える対策として、Resilire というスタートアップが提供する「サプライチェーン・リスク・マネジメント」への対応が注目を集めています。SCRMへの正しい理解と効率化・デジタル化を推進することは今後の競争環境において必須です。(本文の書き起こしは収録インタビュー動画の一部、文中敬称略)

9月に STRIVE からの調達が発表された Resilire の津田さんにお越しいただきました。サービス紹介と自己紹介をお願いします。

サプライチェーンのリスク管理やったり社内のBCM(Business Continuity Management、事業継続管理)と言われるものを DX したりするようなクラウドのサービスを提供しています。私は関西出身なんですけど、関西で西日本豪雨を被災しまして、そのタイミングで「世界的に災害が異常に増えてないか」と思ったのがこの会社を創業するきっかけでした。

実際に調べてみると自然災害による経済損失は非常に増えていて、これからも増えていくという試算も出ています。今後来る損失を予防するようなイノベーションが必要なんじゃないかいうことを考えて立ち上げたというのが背景としてあります。

最近は特に浸水害がかなり増えていて、今私が取り組んでいるサプライチェーンの部分で言うと、どんどんサプライチェーンを途絶するようなリスクがより増えてきていることが現状となっています。最近は自然災害以外でも、今回のコロナもそうですけど、スエズ運河の座礁であったり、頻繁に起きる浸水害とか、いろんな要因でサプライチェーンは毎年、何回も何回も止まっています。

その中でも僕らが今フォーカスして解決している課題は大きく二つあります。一つは、サプライヤーや拠点の全体把握ができないということ。特にサプライヤーのティア2以降、委託している企業さんのもう一つ先の調達先の企業さん以降が全く見えていない。そこの管理がしきれてないのが一つの課題です。もう一つは災害であったり何か事故みたいなものが起きた際に、どこに影響があるのかという全体把握が非常に難しいことが大きな課題になっています。

実際、これができてないが故に、多くの企業で製品が止まって損害を伴っています。今、Resilire として提供している部分は、サプライヤーであったり、社内全体の倉庫であったり、拠点であったり、工場全体のクラウドで管理ができるというところ、そして、自然災害が起きた時に影響のある範囲を自動的に即時で把握することができるというものです。

たとえば、サプライチェーンは結構、超大手企業さんでも Excel で数百から数千の企業を管理していたりするんですけれども、Resilire を使うとクラウド上でツリー状に管理することができ、社内だけではなく社外のサプライヤーさんに対してもアカウントを付与して、サプライチェーン全体を管理し、クラウドでサプライヤーのネットワークを作っていくことができます。

地震とか停電、土砂、浸水害みたいなことが起きた際に、それによって影響があるサプライヤー拠点を自動的に緯度経度の情報から照らし合わして可視化して、自動的にメールを送って、実際の被災状況はどうなのかを回答すると、ここのツリーで色が変化して全体が見えるというようなものになります。

今までは、たとえば地震が起きると Excel と照らし合わせて「ここ影響あるんじゃないか」っていうのをチェック入れて、もう全部ひたすら架電していくというようなやり方をしていたんですけれども、これが半自動的に情報が集まってくる体制になっていきます。最近、直下地震を模擬的にクラウド上で起こさせるような訓練機能も実装したので、首都直下が起きた時にどこに影響があるのかを事前にシミュレーション的に見ることができる機能も提供しています。

(STRIVE の)四方さんから、Resilire にSTRIVEとして興味を持って投資をした理由を、ESG の文脈も含めて教えていただけますか?

ESG という文脈で行くと、Resilire 自体は気候変動っていうところに対して大企業がどういう風にそのリスクに対応すればいいのかというところのソリューションを提供していると思っています。

具体的には、サプライチェーンの中で委託先の企業が自然災害で止まってしまった際に、どのようにそこの状況を把握するかとか、実際に起きる前にどういう風に予防すればいいのか。今の気候変動が起こっている時代の中で、日本を代表するような大企業がそこのニーズを本当に逼迫して感じているんだなというところが投資の際の大きな判断材料でした。(STRIVE 四方)

津田さん、日本は自動車製造におけるトップキーをずっと持っていて、非常にパーツが多い製造のサプライチェーンをずっと支えてきました。そして、災害がすごく多い地域です。この辺りのところに関してはものすごくノウハウがありそうな気はしてたんですが。

そうですね。ほぼほぼトヨタだけが持ってたという状態ですね。特にサプライヤーの管理の方法もそうなんですが、サプライヤーさんに対して平時の段階でリスクのスコアリングをして、どこが一番止めてはいけないのかというのを事前に把握し、その上で、どこかが止まった時にどう対応するかというのを事前にリスク予防しておくところまでトヨタとかはやっていたりするんです。(Resilire 津田)

どういうことが発生するとサプライチェーンにダメージが与えられるのでしょうか。

かなり多岐に渡るんですけれども、一番多いのは自然災害であったりだとか、今回のコロナみたいな感染症もそうですけど、あとは個別の事情として工場の爆発とか火災とか、そういったものもありますね。

今回のコロナで言うと、中国がロックアップになりましたとなった時に中国から調達していた原料だったり部品がもう全然調達できなくなるみたいなことも起きたりして、けっこう波及していろんなところでリスクが起きたりしますね。(Resilire 津田)

災害が発生した時に対応するスキームとかはありますか? どこから手をつけるのでしょうか?

まず、災害が起きた時にどこに影響があるのかを瞬時に把握して対応していくことが重要なんですけれども、そもそも災害が起きた時にどこに影響があるのかという範囲を理解するには、事前にサプライチェーン全体を見える化しておく必要があるんですね。ただ、ほとんどの企業さんは一個目のティア1の委託先の企業さん、直接契約されているところは見えてるんですけど、その次の委託している企業が調達してる先、ティア2以降のメーカーとかはほぼ把握できてないというのが実体としてあります。

そうなってくると、災害が起きた時に、自分たちのA社から委託して調達しているものが止まるのかどうかというのはなかなか把握しづらい部分があります。なので、まずはティア2以降、メーカーとか全体を把握していくことがまず必要で、その上で、たとえば地震が起きましたとなった時に、地震が起きた範囲にある拠点や工場、それによって影響するのがどこなのかをすべて確認していって、「ここが止まります」「ここは正常です」というのを整理していく。

その上で、止まるとなったらその部品が来なくなる可能性があるので、じゃあこの部品を別のところで調達できる代替調達先はないのかとか、もしくは、この止まった先を復旧することはできないのかというのを考えていきます。トヨタの場合はルネサスという半導体を作ってるところで火災が起きた時はもう、社員を大量に行かせて早く復旧くさせようという動きをしたりしていますね

ただ実は事前の段階で決まっている部分もあって、リスクが起きた時に、すぐに代替の調達先を捜そうという動きをしても、なかなか時間が掛かったりする。だから、どこが止まったら一番やばいのかというのを事前に理解した上で、ここは代替調達先を確保しておくとか、ここの半導体に関してはもうここでしか調達できないんで、じゃあここに関してはちょっと在庫を多めに持っておきましょう、みたいな調整が必要になってきます。(Resilire 津田)

すごい複雑そうですね。しかも各メーカーさんごとにすごくユニークなサプライチェーンが組まれている。ここの部分がボトルネックだということをまとめた計画書を作るには、どれぐらいの期間とどれぐらいの費用、どういうリソースが必要になるのですか?

企業によってバラバラですよね。サプライチェーンの長大さもバラバラなので、、管理対象をどれぐらいまで置くかによっても掛かるコストや時間というのは相当違うんですけれども、前提としてまずやるところはティア1の委託先企業さんがどれぐらいあるのか。大手企業だと何百社ってあるんですけど、その次にティア2の原料とか部品の調達先はどれぐらいあるのか。大体ほとんどの企業はティア2まで、もしくはティア3ぐらいまでしか管理対象にしないんですね。量が膨大になっちゃうので。

うちは大手の製薬企業さんに導入されたりしてるんですけれども、大手の製薬企業さんだとティア2でもう3,000〜4,000社とかあったりします。この3,000〜4,000社全部を、ティア1の企業、たとえば200社ぐらいに3,000社全部出してもらえるように交渉して、エクセルで全部整理して出してもらって、それを全部エクセルに起こしていく。その上でどこが止まったらインパクトが大きいのかっていうのを洗い出していくという作業が必要になってくる。まあ相当膨大な時間とコストがかかります。(Resilire 津田)

Resilire を使えば、サプライチェーンのリスク管理でどの部分を効率化できるのでしょうか。また、効率化することで最終的にどういうメリットがあるのでしょうか。

今までサプライチェーンのリスク管理は、止まった時のネガティブなインパクトがめちゃくちゃ大きいので、大手の企業さんとかだと自社でシステム組まれたりとか、大手の SIer に依頼して作ったりっていうのが今までは行なわれてきたんですけど、ただ実質的に本質的な予防になってないのが現状です。たとえば某大手自動車企業さんだと、SIer に依頼して10年前にシステムを構築したんですけど、今ほぼ使えてない状態で Excel に戻ってしまっていたりとか。

これはなぜかと言うと、サプライチェーンリスク管理っは一番解決しないといけないのはサプライヤーのネットワークを作るサプライヤーとの新しいコミュニケーション手段を作るのが一番コアで、自社でどれだけ対応してもサプライヤー側に何か起きたときにちゃんと対応してもらえるような共通認識を持ってないと、本質的な被害予防に繋がらないということです。

なので、僕らがやってることというのは、どこがどこのサプライヤーと関係を持って仕事をしていて、そのサプライヤーがどの工場を持っているのかという関係図を全部作っていく。かつサプライヤーさんもうちのクラウドサービスに入ってもらって、まずはコミュニケーションできる土台を作るというのが一つですね。

この段階で、今までティア1の企業さん数百社に「ティア2以降を Excel で開示してください」と逐一依頼していたものが、ティア1さんにアカウントを1回付与さえすれば、そのティア1の企業さんはIDをもらってるので何かサプライヤーに変化があったら都度直接クラウドに入れてもらえる。場合によってはティア1さんとティア2さんにアカウントを振って、ティア2さんにティア3さんの情報を開示してもらうみたいに、もうIDの普及で進んでいったりするんです。ティア1まで振れたらあとはもう放置でいい。

まずは、このデーターベースの中で作った上で、それがうちのサブセット、マップ上で全部関係するものにピンが刺されまして、浸水害が起きたりするとそこで影響が出る部分がそこのデーターベースに対してフィードバックをして、色が変化して、検索すると異常個所にすぐに飛んで、「あ、ここか」という風に把握しておける。なので、今まで割と属人的にやってた、災害が起きた時に影響範囲を見つけに行く作業と、事前にアップデートしつづける作業がある程度このクラウド上でできるという形で効率化しています。(Resilire 津田)

四方さん、すごく理想的なシステムだし考え方ですが、投資家の目線でどこの部分がチャレンジになりそうですか?

恐らく一番大きいチャレンジとしては、他の企業と比べても、本当に初手からエンタープライズSaaS、エンタープライズセールスが必要になるサービスだなと思っています。通常、スタートアップの業績で言うと、いわゆる〝スタートアップ村〟みたいなところでの紹介でお客さんを見つけて、というのはよくあるパターンかなと思いますが、Resilire の場合はもう初手からどうエンタープライズに使っていってもらえるかがチャレンジになります。

幸いなことに各社さんからお声がけはいただいているので、そこのドアノックはある程度いける感覚があるのかなと個人的に思っています。その次の、津田さんが今話していたような本当にティア1・ティア2・ティア3と広がっていくのかというところは、これから検証ポイントであるのかなと思いつつ、そこのインセンティブ作りをどうやったらうまくできるかというのは議論しています。(STRIVE 四方)

記事編集:池田将、インタビュー:平野武士、動画編集:佐々木峻

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