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爆発的成長の次なるフロンティアはエイジテック!国内外の動向をチェック

スタートアップ業界の担い手は比較的若い世代が多いため、シニアマーケットと言われてもいまいちピンとこない・・・という方が多いかもしれません。実はシニアマーケットは、高齢化の進む先進国を中心に大きな注目を集める巨大成長市場なのです。エイジテック(AgeTech)は、シニア世代の生活をより豊かにする様々なテクノロジーやサービス、それらを開発・提供するスタートアップのことで、エイジテックの動向にも年々関心が高まっています。デジタル化が遅れていると言われるシニアマーケットを変えるエイジテックは、爆発的成長を遂げたフィンテックなどに続く次なるフロンティアと考えられています。
なぜ今エイジテック熱が高まっているのか、海外スタートアップの動向や事例、日本の状況などを俯瞰し、この大きな波をとらえるヒントを得たいと思います。Let’s strive to know “AgeTech”!

世界で進む高齢化: 2060年、先進国の高齢者人口比率は3割へ

高齢化といえば日本、という印象を持ちますが、実際には日本以外の多くの国でも高齢化は進んでいます。世界的な平均寿命の延伸と出生率の低下を受け、欧米・アジア各国で高齢者人口の比率が高まっているのです。国際連合の統計調査によると、2015年、世界の総人口に占める高齢者人口比率は約8%ですが、2060年には約18%にまで増加します。2060年の高齢者人口比率は、先進地域では3割近くにのぼり、開発途上地域でも2割弱の水準にまで増加する見込みです。世界の高齢化率の推移をみると、2060年までにドイツやフランスでは3割程度、中国は日本を上回り4割を超えると見られています。

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なぜ今エイジテックなのか? エイジテックが加速する5つのドライバー

近年、エイジテックに熱視線が集まるのは、高齢化以外にも様々な要因があります。エイジテックの成長が加速するドライバーとして、(1)センサー、AI、VR、ロボットなどのテクノロジーの進化、(2)高齢者の経済規模試算などによる高齢化社会への注目度上昇、(3)コロナウイルスのパンデミックによる後押し、(4)”成熟”起業家によるエイジテックスタートアップの増加、(5)ビッグテックなどによるエイジテックへの積極的な参入などが挙げられます。
2019年のForbesの記事では、米国の高齢者経済は2016年度に7.6兆ドル(米国GDPの4割に相当)、欧州の高齢者経済は2015年度に約4兆ドル(欧州GDPの2割に相当)と見積もられていることに触れながら、巨大市場であるもののデジタルイノベーションが遅れた分野であるとし、エイジテックの大きな成長余地について解説をしています。また、2022年1月に米国ラスベガスで開催された国際的なテックイベント「CES 2022」でも、メディカルヘルスなどエイジテック領域の盛り上がりが報告されています。(参考: Business Insider 海外イベントから分析する「2022年テクノロジー流行」)。

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エイジテックスタートアップの調達動向: デジタルヘルスケア分野は記録的な年に

エイジテックには高齢者の自立的で豊かな暮らしを支える幅広い商品・サービスが含まれています。例として、見守りや遠隔介護のためのデバイス、デジタル治療やオンライン薬局・診療、介護補助のためのロボット、移動・買い物などの生活支援サービス、健康食品や機能性医療、老後の資産形成や相続のための金融サービス、他にも高齢者向け医療・介護事業を支えるサービスなどが挙げられます。
エイジテックの大きな領域を占めるデジタルヘルスについて、スタートアップによる資金調達の最新動向を見ていきましょう。CB insightsの「State of Digital Health Global 2021」によると、グローバルでのデジタルヘルスの資金調達額は2021年に572億ドルに達しました。2020年に比べ79パーセント増加し、過去最高を記録しています。100百万ドル以上の調達となるメガラウンドは154件と昨年度に比べほぼ倍増し、資金調達額の平均値も25百万ドルと過去最高でした。ユニコーンの数は2021年に13社増加し、合計85社になりました。増加した13社のうち8割が米国を拠点としています。デジタルヘルス領域のスタートアップに積極的に投資する投資家は、VCのGeneral CatalystやAndreesen Horowitz、CVCのGoogle Ventures、そして投資会社のTiger Global Managementなどが挙げられます。2021年はスタートアップのエグジットも極めて活発で、M&Aが574件(前年度比176件増加)、IPOが77件(同39件増加)、SPACが17件(同16件増加)となりました。

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デジタルヘルス分野の有力スタートアップ

CBInsightsは2021年12月、「The Digital Health 150」を発表しました。これは同社が毎年発表する、世界で最も有望なデジタルヘルス関連スタートアップ150社のリストで、自薦、他薦を含む11,000社以上の中から選出されています。下記に掲載されたカオスマップの16のカテゴリーのそれぞれで、特に資金力の高いスタートアップは以下に紹介していきます。16社のうち12社が10億ドル以上の評価を受けるユニコーンで、推定評価額が62億ドルのHinge Health (腰痛等のデジタル治療)、63億ドルのCityblock Health (低所得層向け医療サービス) などが含まれています。

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上記の16のカテゴリーのそれぞれで、特に資金力の高いスタートアップは以下になります。

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エイジテックスタートアップ: AARP Innovation Labsから

デジタルヘルス以外の領域のエイジテックスタートアップの事例をみていきましょう。AARP(米国退職者協会)は、入会資格である50歳以上の会員約4,000万人を擁する世界最大規模NPO団体です。大統領選にも影響力を持つロビー団体でもあり、高齢者向けの保険や旅行商品の全米最大の販売者でもあります。AARPは、アクセラレータープログラムのAARP Innovation Labsや、AgeTech Collaborativeなどの活動を通じてエイジテックの支援やエコシステムの構築を推進しています。2022年ラスベガスで開催されたテックイベント「CES」でも、AARP Innovation Labsから複数のエイジテックスタートアップが紹介されていましたので、その中の一部を紹介します。ここでは、エイジテックのカテゴリーとして”Community center”、“Clinic”、“Wellness center”、”Financial services”、”Housing”の5つに分類しています。

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日本の高齢化: 高齢者人口比率は4割で安定へ


それでは、国内の状況をどうなっているでしょうか。「日本は高齢化が進んでいる」、ということは周知の事実かと思いますが、具体的な推計値で2050年頃の状況を見ていきましょう。まず、人口は2008年の1.28億人をピークに、2050年には約1億人、2100年には約6千万人にまで減少する見込みです。その中で、特に15歳から64歳の生産年齢人口が急激に減少します。生産年齢人口は2021年現在の7,455万人から、2050年には5,275万人と2,180万人も減少します。一方、65歳以上の高齢人口は2021年現在の3,620万人から、2050年には3,841万人と221万人の増加見込みです。世代別の構成比は、現在の高齢者:生産年齢:若年層=3割:6割:1割から、2050年以降の4割:5割:1割に落ち着く見通しです。さらに、少子高齢化は特に地方で進み、また、高齢者単身世帯の増加により、世帯類型における単身世帯の割合が拡大します。
今後の日本のマーケットのボリュームゾーンは65歳以上、単身世帯となってくるということは、さまざまなサービスを展開する上で重要な視点の一つになっていくでしょう。

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“老い”の変化: インターネット利用に親しむアクティブシニアの増加

高齢化は進展しているものの、「シニア層は社会活動への参加やインターネットの利用は消極的」という従来のイメージは崩れつつあります。医療の進歩、食生活の改善、健康志向の高まりなどにより、平均寿命・健康寿命が徐々に伸びているほか、体力テストや歩行速度調査等の結果からも、高齢者の体力・運動能力が若返っているというデータが得られており、いわゆる“アクティブシニア”が増加していることを示しています。日本老年学会・日本老年医学会「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ 報告書(H29.3)」によると、「65〜74歳では心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占める」とし、75歳以上を高齢者の新たな定義とすることを提案しています。
コロナ禍などの後押しもあり、シニア層のインターネット利用は一層盛んになっています。60歳代の約8割がスマートフォンを利用し、また、55歳から64歳は5割から6割がネットショッピングを利用しています。今後のシニア層のインターネット利用が当たり前になっていく中では、シニア向けサービス展開のマーケティング方法も従来とは異なっていくでしょう。

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<参考>シニア層のネットショッピング動向
2021年の65歳以上の高齢者世帯の1ヶ月のネットショッピング支出金額は8,542円と、64歳以下の非高齢者世帯に比べると半分以下の水準となっています。コロナ禍以前は「旅行関係費」への支出が大きかったのですが、2021年は「食料」が最も多く、全体の3割を占めています。
非高齢者世帯と比べてみると、「医薬品・健康食品」への支出が1.8倍と最も高く、続いて贈答品が1.6倍と最も高くなっています。また、ゲーム、デジタルコンテンツなどを含む教養関係費が0.6倍と最も低くなっています。

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国内シニアマーケットの規模は2025年に100兆円規模に

いわゆる”シニアマーケット”の規模は、みずほコーポレート銀行が2012年に発行したレポートによると、2025年度に100兆円規模になるとしています。そのうち、公的支出が大部分を占める医療・医薬産業は約35兆円、介護産業は約15兆円にのぼり、食料・家具・交通・娯楽などを含む高齢者の生活全般を支える産業は約50兆円になります。2007年度の高齢者向け市場は、医療・医薬産業が約16兆円、介護産業が約6兆円、生活産業が約40兆円となっており、2025年度は2007年度対比で161%と大きく成長する予想です。

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国内ヘルスケア産業の市場規模: 2019年に約24兆円

大部分が国庫から賄われる医療費及び介護費の負担を軽減するためにも、高齢者の健康保持・増進や、患者・介護者への生活支援商品・サービスを対象とするヘルスケア産業は、国策として極めて重要な領域であり、経済産業省などがヘルスケアサービスの普及に向けて需要喚起やサービス提供事業者の支援を推進しています。PwCコンサルティングの調査によると、2019年のヘルスケア産業の市場規模は約24兆円と試算され、2030年は約31兆円と約1.3倍に拡大する見込みです。ヘルスケア産業の中で、「健康保持・増進に働きかけるもの」の市場規模は2019年度に約19兆円、2030年には約23兆円に成長し、「患者/要支援・要介護者の生活を支援するもの」の市場規模は2019年に約5兆円、2030年に約8兆円に成長すると予測されています。また、医療機関や介護施設など事業者向けのサービスや、終活・看取りのサービスなど周辺領域は試算されていないものの、相当の市場規模になることが想像されます。
市場規模としては「民間保険」(医療・介護保険など)や「要支援・要介護者向け商品・サービス」(介護 用食品、介護住宅関連・福祉用具など)が最も大きいですが、成長率としては「運動」(フィットネスクラブ、フィットネスマシンなど)や「知」(ヘルスケア関連書籍・雑誌、ヘルスケア関連アプリ・サービスなど)、「健康経営」(健診事務代行、メンタルヘルス対策など)が高くなっています。

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コロナ禍によるデジタル化を受けヘルスケア産業の裾野拡大

コロナウイルスのパンデミックを受け、社会・生活の様々な活動でのデジタル化が急速に進展しました。その中で、医療分野とヘルスケア分野のデジタル・トランスフォーメーションが加速し、健康管理/予防・診断・治療・予後において、個人単位で個別化・最適化されたヘルスケアを提供する新たなデバイスやサービスが発展する余地が拡大しています。

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国内のエイジテックスタートアップ

国内でも、ヘルスケアや周辺領域を含めたいくつものエイジテックスタートアップが誕生していますので、ごく一部にはなりますが紹介していきます。

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おわりに

スピードの差こそあれ、ほとんどの国や地域で高齢化は進んでいきます。高齢化に付随して生じる様々な課題の解決は、国家にとっても人々にとっても極めて高い価値を持ちます。特に米国では、いくつものエイジテックスタートアップのユニコーンが生まれ、また、大手テック・小売企業などのM&Aや投資を含めたエイジテックへの参入が活発になっています。今後、高齢化がいち早く進む日本からも、グローバルな展開も視野に入るエイジテックスタートアップが誕生することを期待しています。


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