VC経営:適正なファンドサイズとは?

VCファンドを経営する際に最も頭を悩ますことの一つに、どのくらいのファンドサイズが適正なのかという問題があります。
最近では日本でもファンドの大型化が進んでおり、100億を超えるファンドも珍しくなくなり、大手ファンドでは300-400億円規模のファンドも出てきています。
ファンドサイズが大きくなること自体は、スタートアップにとってポジティブなことだと思いますが、ファンド経営者からすると諸手を上げて喜ぶというほど単純なものではありません。

以前にも触れましたが、VCのキャッシュインには2種類のものがあります。
1つには管理報酬と呼ばれるもので、ファンド総額の2%をマネジメントフィーという形で毎年受取ります。100億円のファンドだとすると2億になりますね。これがファンドの存続期間である10年間続きます。(厳密には管理報酬のフィーはファンドごとによって異なりますが、概ね2-2.5%くらいのフィーのところが多いようです)VCは基本的にこの管理報酬で人件費や家賃、その他の費用を賄うことが通例です。


このことからもお分かり頂けるとおり、ファンドサイズが大きくなると、管理報酬の金額も必然的に増えて、ファンド経営のキャッシュフローは格段に良くなります。なので、ファンド経営者はファンドサイズを大きくしたくなる誘惑に常にかられます。
最近、独立系のVCでも自社の旗艦ファンドとは別に、大企業のCVCの運営受託をするケースが増えてきているのは、まさにこの管理報酬によるキャッシュフローの安定化という側面があります。もちろん、大企業と一緒にオープンイノベーションを促進したいという思いがあるのは当然だと思いますが。

もう1つは成功分配と呼ばれるものです。これは、ファンドが元本回収した後に受け取るもので、元本回収後のリターンに対して20%の分配金をもらうというものです。つまり、株式投資でいうところのキャピタルゲインに相当するものです。100億のファンドを200億のファンドにすると、(200-100)×20%=20億が成功分配としてGPに入ってくるという計算になります。当然、ファンド経営者としては、成功分配の方が金額的に大きいので、皆、ファンドの何倍のリターンを出せるかということに必死になるわけです。


ここで、ファンドサイズの問題が出てきます。小さいファンドサイズ(仮に20億円としましょう)これを2倍の40億にするのは、100億円のファンドを200億円にすることよりも遥かに簡単です。だったら、小さいサイズのファンドを運営した方がいいじゃないかと思われますが、それほど単純ではありません。理由は2つあります。1つ目は、先ほどの管理報酬の問題で、ファンドサイズが小さいと管理報酬も限定的なので、日々のキャッシュフローが安定しません。もう1つは(こちらの方がより重要なのですが)ファンドサイズが小さいと投資先の追加投資に応じるのに限界があり、たとえ最初にいい会社に投資出来ていたとしても、その会社がIPOするタイミングで、持分比率がとても小さくなってしまう可能性が高く、結果としてたいして儲からないということになります。だったら、やはりファンドサイズを大きくした方が、管理報酬も安定して、追加投資に積極的に応じることが出来ていいじゃないかという話になるのですが、今度は、日本におけるEXIT環境について考慮する必要があります。最近でこそユニコーンブームにより、1000億円以上の評価額で上場する企業も出てきておりますが、20年近くこの業界にいてもその数はごくわずかで20社もいかない程度です。つまり1年間に1社出るか出ないかということです。仮に400億のファンドを運用していたとします。メルカリ、sansan、freeeに初期から投資していて、それぞれ上場時に10%持っていたとします。単純化して、各社の時価総額を3000億円、1500億円、1500億円とすると、合計で600億円(3000億円×10%+1500億円×10%+1500億円×10%)の売却益を得ることになります。これはこれですごいことなのですが、400億円の元手で600億円、残りのポートフォリオで100億円の売却益を稼いだとしても700億円、つまり、元本から考えて1.75倍ということになります。(もちろんベンチャー投資なので、全てが成功すうわけではなく、投資先の2-3割は元本回収出来るか出来ないかというすれすれのゾーンになります)グローバルのTopTierVCの場合、元本の3-4倍のリターンを求められるのが通常なのですが、それと比較すると1.75倍はやや寂しいパフォーマンスと言えます。つまり、メルカリ、Sansan、freeeのような何年かに一度くらいしか出てこないような会社に一つのファンドから3社全部に投資出来ていて、それなりのシェアを持っていたとしても、ファンド全体の3-4倍のリターンを出すことはかなり難易度が高いと言えます。

そこで冒頭の問いに戻るのです。
適正なファンドサイズとはいくらなのか?
正直、私自身、まだその答えはわかっていません。
今後日本のEXIT環境が大きく変わり、M&Aでも米国並みに100億円を超えるM&Aが当たり前になったり、IPOする際は1000億円を超えるのが普通になってくるようになると、ファンドサイズの大型化も許容できるようになると思います。もし、そこが今とあまり変わらない前提だと、大型化したとしてもあまりリターンを生み出さない可能性が高く、その結果、LPからの継続的な出資が期待出来なくなり、もっというと、機関投資家を中心とした大口の投資家が、アセットクラスからVCを外してしまうことになりかねません。
なので、我々ファンドの運用責任者であるGPは、常に適正なファンドサイズはいくらなのかを自らに問い続けるのです。
適正なサイズのファンドを運用して、安定したリターンを出し続けることが、VCへの安定したリスクマネーの供給に繋がり、結果として、それがスタートアップへの資金供給源となり、スタートアップエコシステムを構築していくことになるので。

私自身も、GPとして、今まで以上に、高い職業倫理感を持って、ファンド運営にコミットしていきたいと思います。

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