ドローンを活用した屋根点検業務から、建設業界のDXを推進 CLUE阿部氏×STRIVE堤・古城
2020年12月にシリーズBラウンドで20億円の資金調達を実施した株式会社CLUE。戸建て物件の屋根外装点検をワンタップで実現できる業界特化型SaaS事業「DroneRoofer(ドローンルーファー)」、建設現場のDXを推進する「ドローン施工管理くん」など、建設・施工業界向けのドローン事業を展開しています。
しかし、2014年8月に創業した当初手掛けていたのは、ドローンとは全く異なるファッションアイテムの月額レンタルサービス。どういった経緯でドローン事業にシフトしたのか、ドローン領域の未来について、CLUE 代表取締役の阿部亮介氏にSTRIVE 代表パートナーの堤、インベストメントマネージャーの古城がうかがいました。
屋根事業者さんからいただいた一通のメールをきっかけにスタートした、ドローンを活用した屋根点検の事業
堤:”ドローンを活用して屋根点検をする”という目の付け所が、非常におもしろいですよね。ただ、創業当初は別の事業を立ち上げられていましたよね?
阿部さん(以下、阿部):はい。幼少期から飛行機やロケットが好きで、学生時代は宇宙工学を専攻し、JAXAと研究を行っていました。日本では航空産業の国の予算が少なく、民間から日本の航空産業を盛り上げたいと思ったのが起業を志したきっかけでした。ただ、初期から航空産業という業界で事業を立ち上げるのは資金調達の面で難しいと考えました。そこで、3~4年でグロースさせてM&AできるtoC事業を推進し、キャピタルゲインを作った後に航空産業の領域で事業を立ち上げようと思っていたんです。
まず立ち上げたのは、当時日本にはなかった洋服、アクセサリーの月額レンタル事業です。学生時代の友人であるエンジニアとふたりで始めたこのサービスは、おかげさまでグロースし、テレビでも取り上げられるほど注目していただきました。ただ、資金調達の相談をしていたVCの方から、「もっとグロースする市場で事業をやった方が楽しいし、会社も伸びる。事業転換するならぜひ投資したい」と言っていただきまして。
その言葉を受け自分の視座の低さを痛感し、メンバーとの議論を経て、ホームランを狙える事業を検討することになりました。「航空産業で事業をやりたい」という原点に立ち返ったとき、見えてきたのがドローンです。2015年当時はヨーロッパでドローンの産業利用が増えてきた時期で、日本にはスタートアップ企業はまだありませんでした。
古城:最初から建築業界への活用をイメージされていたのですか?
阿部:いえ、最初はVCの方からのアドバイスもあり、ドローンビジネスに詳しくなるためにメディア事業を始めました。海外のドローンビジネスやプロダクトの情報を収集して、約1年間日本語で発信し続け、市場理解を深めていきました。海外でもグロースしているドローン製品はあまりなくて、どうすれば成功するのかわかりませんでした。
その後、2つの事業を始めました。ひとつ目の事業は2016年にリリースした「ドローンクラウド」というデータ管理プラットフォームです。飛行ログや機体情報などを一元管理できるものだったのですが、当時はドローンを活用している事業者が少なく、グロースしませんでした。
古城:顧客がいなかったわけですね。
阿部:そうなんです。ふたつ目の事業は、NTTドコモとNTTデータと当社との3社で行った遠隔システムの研究開発です。携帯電話の電波を使ってドローンが送受信するのは、地上の携帯ユーザーに影響を与えるおそれがあるため法規制されています。2016年以降、この法律を総務省が改正しようという動きがあったので、先行投資になるのではと思っていたんです。結局、2021年現在、いまだに法改正はなかなか進んでいないのが現状です。
屋根点検にドローンを活用しようと思ったのは、2017年3月に屋根事業者さんからいただいた一通のメールがきっかけでした。新築戸建て住宅は減少傾向にある一方で、リフォーム市場における屋根点検のニーズが増えているそうです。しかし、屋根点検の職人の大半が団塊世代や高齢者であるため、点検できる人の数が減っている。また、屋根点検は人の手で行うと2時間程度かかる上、滑落事故が国内で年間600件ほど発生しているなど、多くの課題を抱えています。
そのメールには、こうした屋根点検業界の現状と共に、「どうにかドローンで私たちの産業を救ってほしい」と熱いメッセージが書かれていました。屋根点検をドローンで行う市場は当時すでに北米にあり、日本でも必ず伸びる市場だろうと考えました。そして、2017年3月から開発を開始したんです。
堤:問い合わせがきっかけだったんですね。現在はどういった企業を顧客として抱えていらっしゃいますか?
阿部:「ドローン施工管理くん」は、施工管理の大手ゼネコン、「DroneRoofer」は屋根や外装の点検を行う工務店やリフォーム会社、ハウスメーカーや塗装会社にご利用いただいています。前者は年間2,000億、後者は3,000億円ほどの市場規模があると言われています。
投資の決め手はCLUEの組織のあり方、”屋根点検”というマーケット選定のセンスの良さ
古城:組織のお話をうかがっていきたいと思います。
投資検討段階でメンバーの方々にお話をうかがった時に、阿部さんを筆頭にメンバー全員がビジョン・ミッションに共感し、バリューにもとづいた行動ができている組織力に魅力を感じました。このような組織をどのように構築されていったのでしょうか。
阿部:一時期はかなり苦労しました。ドローンを扱っているということで引きがあり、入社いただけるのですが、組織の雰囲気作りがうまくいっていなかったために定着率が悪い状況でした。2018年夏頃から組織作りの改革に取り組んだ結果、直近半年は退職者が出ていません。
古城:素晴らしいですね。どのように改革されたのでしょうか?
阿部:カルチャーフィット重視の採用にし、スキルやドローン知識は二の次にしました。スキル面は入社後に伸ばせますからね。最終的には「いい人かどうか」を重視しています。50人以下の規模の会社にありがちですが、当社も評価制度がまだ整っていなかったため、定性的なバリュー評価で2年間運営していたんです。カルチャーフィットを重視して採用する人を厳選し、行動指針にのっとったバリュー評価で運営していくことで、入社後もスムーズに組織に溶け込める体制になりました。
結果、メンバー間のコミュニケーションコストが大幅に下がり、上司部下間の摩擦も減りました。今、マネージャーを含め、社内メンバーはみんな仲がいいんですよ。
堤:阿部さんにとっての「いい人」はどんな人なのでしょうか?
阿部:前向きな人間性を持っている人ですね。また、これは結果論ですが、チームやお客様のために貢献することにやりがいを感じられるタイプの人は、僕の中ではいい人だと思って入社いただけるよう意識しています。
古城:行動指針を設けても、組織内に浸透するかは別の話ですよね。CLUEはメンバーにもしっかりと浸透しているのがすごいなと思っているのですが、何か工夫されていらっしゃいますか?
阿部:3年ほど前、社員15名くらいの時期に、プロのコピーライターに依頼して行動指針を言語化しました。実は、社員3名の時代に、VCの勉強会で組織作りについて学ぶ機会があったんです。それをきっかけに、15~20名規模になったらビジョン・ミッション・バリューを作ろうと思っていました。また、行動指針を作って終わりではなく、社員の行動が行動指針に当てはまっているときに押せる「Slackのカスタム絵文字」を作っていて、どの行動が行動指針に該当するのか社員が目に見えてわかるようにもしています。
古城:CLUEの既存投資家から堤にきた連絡をきっかけに投資検討を開始しましたよね。
堤:STRIVEではすでにドローン領域での投資実績があり、他のスタートアップにも機会があれば投資したいと思っていたタイミングだったんですよね。初回は昨年9月で、Zoomでのやり取りでした。私たちの印象はいかがでしたか?
阿部:実は、堤さんのことは5年ほど前からTwitterでフォローしていまして、投資先に愛情深く熱い方だなという印象を抱いていたんです。実際にお会いしても、そのイメージにギャップはなかったですね。むしろ、より深い愛情を感じています。
古城さんは、非常にロジカルな方だと思っていたんです。最初の打ち合わせの時、鋭く深い質問をたくさんいただき、頭のいい人だなと。ただ、DD(デューデリジェンス)を進めるなかで、古城さんも堤さん同様に投資先への愛情が深い方なんだなと感じました。超ロジカルと思いきや、ものすごい人情派の方です。
古城:DDでは、阿部さんに負担をかけているだろうなと思いながらも多くのQ&Aをさせていただきました。申し訳ない気持ちはあるのですが、この会社が更に成長していくためには何が必要だろうか?の解像度を上げるためにはどうしても必要だと思っておりまして…投資させていただいた後に、同じ目線で事業グロースを目指すためにも必要かなと思っております。CLUEの皆さんは非常にロジカルで、ディスカッションは楽しい時間でもありました。
堤:DD=粗探しと思われそうですが、そうではないですよね。実は、初回の打ち合わせ後「CLUEには投資しよう」と即決し、金額もマックスまで出資しようと古城と話していました。だからこそ鉄壁なロジックを作らなきゃという思いがあったので、より細かいところまで詰めていく必要があったんです。
阿部:STRIVEさん含め、日本の名だたるVCにご支援いただいています。起業家コミュニティの千葉道場に入っているので、VCの評判も知っていたんですが、本当にいい評判の株主様に出資していただきました。
堤:株主の幅が広いですよね。私たちにとってもレアケースでして、多種多様なVC、事業会社といいパートナーシップが組めているなと思います。
阿部:お二人は、どういった点で投資を決めてくださったんですか?
古城:重視しているのは組織のあり方と、プロダクトがいかにお客様に求められているかの2点ですね。特に大切なのは、作るのがより大変な組織面です。CLUEはカルチャーが全員に浸透していること、社長とその他経営陣がやるべきことがしっかり分かれていると感じました。何の事業を何のためにやっているのかの落とし込みがしっかりされていますよね。私のDD経験の中で、CLUEさんは1番しっかり落とし込みができているなと感じられた会社のひとつです。今後もっと会社が大きくなってもこのまま進める絵が浮かびました。
事業の良さもKPIの推移でわかります。組織もプロダクトもできているから、もう伸びるしかないだろうという印象でした。
堤:初回の打ち合わせ後すぐに投資することを決め、マックスまで出資しようという決断は私の中で非常に珍しいケースです。これはやはり屋根点検というマーケット選定のセンスの良さに魅力を感じたからです。地味だけどマーケットがあり、市場を先導するパイオニアとなる。革新的なプロダクトを入れることで、10年以内には屋根点検ではCLUEのプロダクトを使うことが当たり前になり、「え、人が登ってやってたんだっけ」と思われる日がくると確信しました。
SaaS事業会社の枠に留まらない、幅を広げた成長に期待
古城:調達した資金の使い道や、今後注力したい点についてお聞かせいただけますか。
阿部:サービスはグロースしているので、採用強化、営業力強化を図り、売上を伸ばすサイクルを作っていくことが1番大切な基本方針です。その上で、ドローン自体は建設業界以外でも使えるものなので、新規事業への投資も積極的に行っていきたいです。
古城:CLUEのいいところは課題フォーカスな点だと思っています。建設業界はもちろん、課題を解決できるならドローンにすら縛られていない。業界のニーズに合ったプロダクトを上手く作って伸ばせたら、世の中にとってもいいことですし、CLUEのグロースにも繋がるでしょう。基本の幹を太くしつつ、枝を増やして新たな幹になっていくことを期待しています。小さく終わる気がしないので、どんどん大きくなって社会の役に立っていってほしいです。
堤:事業の伸ばし方については、今後もディスカッションさせていただければと思っています。ある業界をDXするときには、CLUEが今やっているように一部業務のDXから入るんですよ。ここがステップ1だとすると、ステップ2は取ってくるデータの層をいかに厚くしていくのかなんですよね。集めたデータに違うデータを掛け合わせ、どう横展開させていくのか。
建設業のお客様の困りごとは他にないのかと見方を変えることで、SaaSからマーケットプレイス型モデルに付加していくこともできます。ただ、実際やるには難しいので、ステップ2まで推進できるSaaSの会社はほぼいないんです。
2、3年はステップ1をしっかりやっていくだけでも十分だと思っていますが、IPOを目指すならステップ2も目指していただきたいし、CLUEなら広がりのある事業展開ができると期待しています。世界的にもほぼまだないビジネスモデルの広げ方ができることを期待しています!