プライシングを通じた企業利益と顧客満足度最大化の実現を プライシングSaaS運営のプライシングスタジオ 高橋氏×STRIVE 堤・四方

投資先by STRIVE

2021年1月に、1億円の資金調達を実施したプライシングスタジオ株式会社。社名の通り、価格に関する課題を解決する事業を手掛けている会社です。プライシング戦略支援SaaS「Pricing Sprint」は、サービスリリースから数ヶ月で、「マネーフォワード」や「snaq.me」、「Appify Technologies」をはじめとしたサブスクリプションビジネスのほか、リアル店舗ビジネスなどさまざまな業態に導入されています。2019年6月の創業から今に至るまでの経緯、プライシングスタジオが目指す未来について、代表取締役の高橋嘉尋氏に、STRIVE パートナー 堤、インベストメントマネージャー 四方がうかがいました。

プライシングは経営へのインパクトは大きいものの、扱いが難しい。「Pricing Sprint」が提供する3つの価値

高橋さん(以下、高橋):プライシングとは、サービスに対して適切な価格を設定することです。プライシングの経営へのインパクトは恐ろしいほどに大きいものの、各社苦戦しているのが現状です。しかし、ノウハウがある人材が少なかったり、プライシングをプロに相談し解決しようとするとコストが膨大になったり、障壁が多いんです。

その課題に対し、当社のプライシング戦略支援SaaS「Pricing Sprint」では、「調査」「分析」「値決めまでの伴走」の3つの価値をご提供しています。PSM分析をベースとした調査をもとに、事業に直結する数値である「利用者数」や「売上」等が価格変更前後でどのように変化するかシミュレーションすることができます。また、価格変更後に、年代や性別、動機等どういったペルソナの利用者が増減するのかについても事前に把握できるんです。さらに、利用規約内容との照らし合わせや、価格変更発表のタイミングや方法のサポートまでも行っています。

四方:サービスの価格変更によるインパクトを最小限に抑えることができたり、利用者の方向性や事業戦略の検討時に活用できるので、クライアントの経営判断の材料のひとつになりますね。

堤:クライアントの業種に傾向はありますか?

高橋:今お取り組みさせていただいている企業にはサブスク事業者、特にB2Bサービス提供者が多いです。また、先日の資金調達関連のプレスリリース発表後は、小売業界からの問い合わせも多く寄せられています。小売業界の方はプライシングへのリテラシーが高い傾向にあり、他社との金額差であったり、「PSM分析は知っているけれど、正しいやり方を知りたい」と言われたりと、プライシングへの熱量を感じます。

堤:社としてのポジショニングはどう考えられていますか?

高橋:プライシング系スタートアップとの違いは、彼らが「ダイナミックプライシング」をしていて、僕たちが「バリューベースプライシング」をしている点です。ダイナミックプライシングの切り口は、これまで人間が目で監視しながら高頻度で値段を変えてきた工程を自動化するシステムの提供という視点がほとんどです。ちなみに、バリューベースプライシングは、顧客が商品・サービスに感じている価値に基づいて価格を設定することです。 僕たちの競合はBCGやマッキンゼーなどの戦略コンサルやアンケート調査会社になります。一番わかりやすい違いは価格です。プロダクトなのか、人の手によるサポートなのかという違いもありますが、クオリティを担保したまま圧倒的な安さでサポートできるという点はやはり当社の強みです。さらに、SaaS型でノウハウの蓄積ができる点でも大きく強みを作っていくことができます。

四方:そもそも、どういった経緯でプライシングに目を付けられたのでしょうか。

高橋:初期は、カップル向けアプリの運営や飲食店向けの動画マーケティング支援など、さまざまな構想をもっていました。

ただ、多くの方からアドバイスをいただきまして。「スタートアップの半数はVCとアイデアを練っている。君の今の年齢では、マーケットを探そうにもバックグラウンド的にもいいマーケットは見つからないだろうから、VCと一緒に探しなさい」と言われ、現在の株主であるEast Venturesの金子さんをご紹介いただきました。金子さんとお話する中でプライシングの構想が出てきて、アイデアを詰めていったという流れなんです。2019年6月の話です。

堤:プライシングのアイデアが出てきたあと、どう動かれたんですか?

高橋:Amazonでプライシング関連の書籍を全部買って読みました。その結果、プライシングのインパクトの大きさや課題を知り、一方で答えをきちんと把握している人がいないことも理解したんです。プライシングで事業をやるべきだと改めて思いました。

その後1年くらい、プライシングのコンサルティングをしながら試行錯誤しているうちに、「Pricing Sprint」のアイデアが浮かび、「これだ!」と確信し、開発を進めました。リリース直後から多くのお問い合わせをいただき、そこで改めてニーズを感じました。

「プライシング」というテーマの面白さと課題への向き合い方が早期の支援を決断

四方:私と高橋さんとは、「Pricing Sprint」リリースのタイミングで出会ったと記憶しています。

高橋:リリース直後のタイミングでしたよね。

四方:アメリカでは、NetflixやAppleなど、多くのサブスクやネットサービスが積極的に価格改定をしているのに、日本にはそもそも価格を見直す習慣がほとんどない。国内のサブスク業界にも価格を常に最適化するカルチャーを啓蒙していかなければいけないよね、という日本におけるプライシングの課題をお話しました。個人的に前職でプライシングのプロジェクトに関わった経験もあって、以前からプライシングに関する調査を行っていましたが、高橋さんと議論する中で、チャレンジングではあるけれどおもしろい領域だと改めて感じました。

堤:僕が高橋さんとお話するきっかけとなったのは、10月頃に行われたIncubate Campでした。

実は、2001年頃、コンサル時代の仕事で、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューの「ブランドの戦略メカニズム」という本を読んでいたんですよ。プライシングの重要性について触れられていましたが、経営課題、解決すべき課題だとの認識は高橋さんが指摘された通り低かった。

プライシングというテーマへの興味を持っていたこと、高橋さんたちがプライシングの課題に真正面から取り組もうとされていること、さらには勢いだけではなく、統計解析を学ばれていたことなどが、ご支援に至った理由です。ちょうどファイナンスするというお話もされていて、ご縁だなと感じました。通常ケースと比べると早いタイミングではあったのですが、テーマの面白さと必ず伸びる企業だろうという思いがファイナンスに繋がりました。

四方:創業から今までに壁を感じたことはありましたか?

高橋:壁はあったのかもしれませんが、あまり気にせず、必ずどこかに答えがあると信じて日々サービスに向き合うようにしています。答えはどこかにあるのだから、あとは探すだけ。課題にぶつかったときに精神的にネガティブになるのも嫌なんですよね。

堤:典型的な起業家思考ですよね。根拠なく自分の成功を思い込める要素は、皮肉ではなく本当に大切な要素です。多くの人が途中で耐えられなくなり諦めてしまうのですが、成功する人はそこを諦めずやり切れるんですよね。その点、高橋さんは強いと思っています。投資の決め手のひとつでもありますね。

高橋:諦めずに続ければいつか成功する、簡単な話ではあるんですよね。ただ、自分だけでやり遂げられると思っているわけではなく、メンバーに助けられています。

四方:元株式会社サイカのプロダクト責任者、相関さんなど、強力な方々がいらっしゃいますよね。メンバーを引っ張ってこれる巻き込み力も素晴らしいです。高橋さんの圧倒的なポジティブシンキングに引き付けられているのでしょうね。

顧客満足度と業績を両立できるプライシングの実現を

堤:今後、プライシングスタジオが目指すビジョンについてお聞かせください。

高橋:プライシング領域で圧倒的1位のポジションを確立したいと思っています。海外に、Simon Kucher & Partnersというプライシング専門ファームがあるんです。まず当面の目標は、サイモン・クチャーの日本版になること。その後、Simon Kucher & Partnersを追い抜き、最終的にはプライシング領域を全取りしたいと考えています。

過去に取り組んでいたダイナミックプライシングは、顧客満足度を大きく下げる可能性のあるものなんです。そのため、顧客満足度と業績のどちらを優先するのかを考えなければなりませんでした。ただ、今運営している「Pricing Sprint」で、プライシングを通じた企業利益と顧客満足度最大化の実現を推進するという一つ到達したい場所には来れたと思っています。

四方:プライシングスタジオがナンバーワンになる過程で、プライシングを科学できていない文化が変わるのだろうと思います。そのために必要な取り組みが、啓蒙活動や一つひとつ業界別に支援していくということだと理解しています。また、トヨタの価格改定による時価総額へのインパクトを再現できれば、日本経済自体が変わるビジネスだとも思います。エンタープライズなどの案件も手掛けていけば、社会を大きく変えていけるのではないでしょうか。

堤:最低限実現したい世界は、日本のすべての企業が「Pricing Sprint」を使って適正な価格を見出していけること、プライシングが当たり前になる社会を作ることだと思っています。そのためにも、まず必要なことは強いプロダクト作りです。まだまだプロダクトとして強くできるものだと思っているので、次のラウンドまでに仕上げたい、そのサポートをしたいと思っています。

長期的に目指してほしいのは、社会課題であるデフレの解決ですね。企業が正しいプライシングをすれば、30年ほど続いてきたデフレも自然と解消するのではないかと思うんです。プライシングスタジオがやろうとしていることは、個別企業の問題解決に留まらず、社会課題の解決の一手段になり得る。そこを応援していきたいです。

高橋:ありがとうございます。短期的な目標では、直近1年くらいで1業態のシェアを何十%か取りたいと考えています。そのためにも、プライシングを外注している企業がたくさん存在していること、外注する価値があるものだと周知させていかなければなりません。自社メディアにもプライシングに関する記事を多く書いています。これからも啓蒙活動にも力を入れていきたいです。