ベンチャーキャピタリストに聞く! 脱炭素領域におけるスタートアップとの協業機会 〜アジア最大規模のオープンイノベーションカンファレンス「ILS2022」レポート〜
2022年2月に開催されたアジア最大規模のオープンイノベーションカンファレンス「Innovation leaders summit 2022」。「ベンチャーキャピタリストに聞く!脱炭素領域におけるスタートアップとの協業機会」というテーマでは、STRIVE インベストメントマネージャーの四方が、WiL パートナーの難波さん、EYストラテジー・アドバイザリー・コンサルティングの青木さんと議論しました。昨今、大企業側でも脱炭素化への危機感の強まりが見られる一方、「何から手を付けたらいいかわからない」といった声も出ています。VCが脱炭素領域に注目する理由、国内外のスタートアップの事例を見ると共に、事業会社とスタートアップの協業機会について深堀ります。
登壇者(写真左から)
青木 義則氏 | EYストラテジー・アンド・コンサルテング株式会社 Managing Director & Partner / EY Startup Innovation Co-Leader
四方 智之氏 | STRIVE インベストメントマネージャー
難波 俊充氏 | World Innovation Lab – WiL パートナー
VCとして脱炭素に注目する理由
青木さん(以下、青木):最初のテーマは「VCとして脱炭素に注目する理由」についてです。難波さんや四方さんは、どのような背景やきっかけがあり、脱炭素領域に注目するようになったのでしょうか。
四方:2019、2020年頃から少しずつ脱炭素領域に関心を持ち始めました。その理由は、下記のスライドにあるような各国の政策の表明が大きかったのかなと思っています。
四方:アメリカ、EU、中国、日本それぞれが、政策に「グリーン・エネルギー政策」や「グリーン成長戦略」といったキーワードを盛り込んでいます。政治家、政治政策から、民間企業やスタートアップにも影響が広がっているのではないでしょうか。日本では、2020年下期に2兆円のグリーンイノベーション基金が創設され、2050年までにカーボンニュートラルを実現すると国が表明しました。実際にお金もついてくるこの政策を見たときに、今までのトレンドとは少し異なると感じました。
青木:クリーンテックトレンドがくると言われながら本当にくるのかという議論がある中で、政策的なところの変化、変わり目が注目するきっかけとして非常に大きかったと。
四方:そうですね。政策に加えて予算も付いてきているという点に違いを感じています。
青木:このスライドを見ていると、電力が非常に大きいのだなと感じます。四方さんは前職で電力に関わるお仕事をされていたと伺っていますが、当時と今との空気感には違いがありますか。
四方:私が関わっていたのは約5年前で、おそらくまったくの別世界になっているなとは思います。お金が行使されることも、5年前には少し想像できていなかった部分ですね。
難波 俊充氏 | World Innovation Lab – WiL パートナー
難波さん(以下、難波):WiLが3号ファンドで「脱炭素」を大きなテーマに据えているのは、我々のファンドの出資者が大企業の方々であり、彼らにとって脱炭素していくことが大きなテーマだからです。社会的にも意義があり黎明期である今、VCとしても投資するのにちょうどいいタイミングだと思っています。。
青木:WiLさんは日米に拠点がありますが、米国企業と情報交換をする中で、日本との差を感じられることはありますか。
難波:アメリカではESGの流れがより明確に意識されていますね。また、意見を言う消費者が多いため、消費者・投資家ともに企業に「脱炭素に本当に向き合っているのか」と問うてくる環境があります。そのプレッシャーを受けてGAFAMは早期から徹底して脱炭素化に取り組んでいます。
そうしたGAFAMの背中を見て、スタートアップも脱炭素化に向けて試行錯誤をしている。その中でツールの必要性やさまざまなナレッジが生まれていっているんじゃないかと思います。日本でも「脱炭素だから選ぶ」消費者がマジョリティになれば、もう一段促進していくのかなと。
青木 義則氏 | EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
Managing Director & Partner / EY Startup Innovation Co-Leader
青木:こうした話を聞いていて思い出すのは、2000年代に起こったクリーンテックバブルです。著名なベンチャーキャピタルファンドが1000億円を超えるお金を投資したにも関わらず、なかなか回収できなかったなんてこともあったわけですが、今回もまた同じことになりはしないのでしょうか。
四方:当時は素材やハードウェア、化学品といったスタートアップがかなりの投資を受けていたのがバブルの一因としてあったのかなと思います。これらは領域としてVCモデルとの相性があまり良くない。通常10年という投資サイクルでリターンを出していかなければいけないという制約を考えると、難しいのではと思います。
難波:僕は今回も一部バブルになる可能性もあるだろうと思っています。ただ前回との違いは、大企業側が脱炭素化を必要としているので、ビジネスが成り立ちやすく、社会実装されやすいので基本的にはポジティブです。「バブルになる可能性がある」としたのは、これだけ脱炭素が注目されると関連するスタートアップが本来評価される時価総額より高く評価される可能性があるためです。スタートアップが上場を果たした時に、未上場段階の方が高い時価総額だったということがないように気をつけたいところです。
VCが注目している投資範囲
青木:次のテーマは「VCが注目している投資範囲」。マネタイズがうまくいくであろう領域など、お二人が注目している領域について深堀していきます。
四方 智之氏 | STRIVE インベストメントマネージャー
四方:私が注目しているのはソフトウェア領域です。投資が進んでいるところでもありますし、VCモデルとの相性もいい。具体的に言うと、CO2排出量管理はすでに盛り上がっている領域です。
難波さんがおっしゃっていた大企業にとっての本当のニーズという意味でも、昨年6月のコーポレートガバナンスコード改訂によってプライム上場企業は気候変動関連の情報開示が義務化されたため、排出量管理のソフトウェアは差し迫った必要性があります。一方、データを見ていて投資の集まり方や市場規模の大きさを感じるのは、エネルギーとトランスポーテ―ションですね。
青木:テスラもまさにトランスポーテ―ションだと思いますが、このあたりでユニコーン企業がどんどん出てくる状況なんですかね。
四方:そうですね。上記に昨年大型調達した企業を並べてみたんですが、EVや電力管理の企業が多く、上位6社で3兆円規模の調達をしているんです。やはりかなりの資金が集まってきている領域だなと。
青木:かなり偏りがあるようにも見えますが、難波さんはこれについてどのように見ていらっしゃいますか。
難波:クライメートテック全体で40兆円、上位6社だけで3兆円と、電気自動車と再エネにはだいぶ資金が集中し仕上がってきた印象があります。今後、また違うクライメートテック領域にも資金が集まっていくと個人的には思います。
青木:クライメートテックとは、気候変動がらみのスタートアップの呼び名でしょうか。
難波:はい。気候変動に関連する、交通や電力、それ以外も含めた広義な括り方になっています。狭義としてCCUS(Carbon Capture, Utilzation, Storage)という領域も存在します。
難波:交通・再エネ分野の投資も重要ですが、CCUS領域をみていくと企業と親和性が高く投資対象にもなりうる会社がみつかってきます。
難波:例えば、最後に挙げたH2green steelは、企業側が投資しながら主要顧客にも名を連ねています。この領域は、これから実態を伴って伸びていくだろうなとひしひしと感じています。
青木:ありがとうございます。四方さんからも具体例をご紹介いただけますか。
四方:STRIVEの投資先を2社をご紹介いたします。
1社目のアスエネは再エネの電力小売「アスエネ」とCO2排出量管理SaaS「アスゼロ」を提供する会社です。大企業の顧客には、排出量の見える化を実施した上で、再エネ100%の電力で実際に排出量削減のアクションまで繋げられるサービスです。
2社目のResilireは、サプライチェーンリスク管理のプラットフォームです。具体的には、自然災害が起きたとき、サプライチェーンがストップしてしまわないように供給停止リスクの予防・対策をするサービスです。取引先や孫請け会社までわからないと全体での排出量管理ができないというのが大企業がおそらくこれから直面する問題だと思っているのですが、Resilireはサプライヤー全体の可視化・管理できるのが1つおもしろい特徴なのかなと思います。
事業会社とスタートアップの協業機会
青木:最後のテーマは「事業会社とスタートアップの協業機会」についてです。国内外のスタートアップが脱炭素領域でさまざまな活動をしていることがわかりました。では、企業としてどういったところから手を付ければいいのでしょうか。
四方:先ほど紹介した投資先であるアスエネの場合は、地銀などの各金融機関との連携によって取引先のバリューチェーン全体の排出量の把握をできるようになっています。他の領域でも協業機会はたくさんあると思います。
1つヒントになるのは、国の施策を見ることですね。冒頭で述べたグリーンイノベーション基金では、上記にある14個の領域を重点投資分野として記載があり、国として具体的にどういう産業の脱炭素を図りたいのかが示されています。VCモデルとの相性の話もありましたが、国や民間の大企業のお金が流れ込んでくると、よりよい循環ができるのかなと思います。
四方:上記は住宅・再エネの一例で、分散型電源で発電された電力を蓄電池やEVでも使える「シェアでんき」というサービスを提供するシェアリングエネルギー社です。こういったサービスは住宅業界はもちろん、自動車などの他業界のプレイヤーも手を組める可能性があるのではないかと思います。
青木:なるほど。難波さんからは、事業会社のスタートアップと協業していく際のアドバイスをいただきたいと思います。
難波:企業は、先ほどもご紹介した上記ステップで脱炭素化を進めていくんだろうなと思っています。まずやるべきは炭素排出の把握。次にカーボンニュートラルに持っていくための、再エネ率向上とクレジットの購入。最後に実質的な排出ゼロを目指した技術革新です。
大企業ときっても離せないのが脱炭素スタートアップ領域だと思います。大企業がスタートアップとお付き合いされるときには、技術の目利きはできるかもしれません。一方で、その会社が本当に今後も成長し資金調達をしていけるのかや経営チームについての目利きには、我々のような中立的な立場であるVCを使っていただけるのではないかと思います。
青木:マーケットの移り変わりが激しく、政治的な動きも出てくる中で、「こうすればうまくいきますよ」という方程式はないのかなという気がしています。アクセルを踏みすぎてもよくなく、バランスを取りながら適度に投資すべきなのかなと。そういった意味でいうと、ベンチャーキャピタリストの皆さんは先々のシナリオを想像、探索しながら走っている。大企業の皆さんにとっても、脱炭素化を進めていく上でそうした考え方のアプローチは何か参考になるのではないかと思いました。
では、最後にお二人からメッセージをいただいてクロージングとしたいと思います。
四方:先ほどお話した内容にも重なりますが、いろいろな面で大企業のサポートが必要になってくる領域なのかなと思っています。ベンチャーキャピタルとしても大企業と投資先のコラボレーションをさらに進めていけると、この領域はより社会にインパクトが大きく、面白い領域になっていくだろうと期待しています。
難波:企業がイノベーションを起こそうと思ってもなかなか難しいというのがここ数年のトライアンドエラーの感想だったのではないかと思っています。ただ、脱炭素は事業の本丸を変革していく取り組みです。これを機会としてに会社内の部署を横断して企業変革を推進していただけたらと期待しております。その中で、我々VCもうまくつかっていただければ幸いです。
青木:難波さん、四方さん、本日はありがとうございました。
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・WiL 難波
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