“私しかできない”12億件を超える猫様データを活用したプロダクト ーー「猫の生活をテクノロジーで見守る」Catlogを展開するRABO 伊豫氏&おでん氏 × STRIVE 堤・髙田
2021年4月に6億円の資金調達を発表した、Catlog(キャトログ)を展開する株式会社RABO。猫様にフォーカスしたプロダクトを次々に開発、提供しています。RABO代表取締役社長の伊豫 愉芸子氏に、RABO社がもつビジョンや今後の未来像について、STRIVE 代表パートナーの堤とインベストメントマネージャーの髙田がお話をうかがいました。
「愛猫家」×「バイオロギング」×「新規事業創出」。この3つを掛け合わせられるのは私しかいないと思った
堤:まずはRABOの事業について、先日発表された新プロダクトも含めてお話をうかがっていきます。
伊豫:猫様専用の首輪型デバイスとスマートフォンアプリのIoTサービス「Catlog」を展開しています。そしてCatlogで取得したデータから食事と消費のバランスを独自に計算する「Catlogフードケア」も先日発表しました。2021年夏には、既存のトイレの下に置くことで猫様の体重、尿量、回数を記録できる「Catlog Board」をリリース予定です。2020年10月にMakuakeにて発表し予約販売を開始した本プロダクトは、開始6分で初期ロットが完売するなど、すでに大きな反響をいただいています。
RABO 伊豫氏
髙田:創業のきっかけを教えてください。以前から起業を意識されていたのでしょうか。
伊豫:実は、全く起業は意識していなかったんですよ。リクルート出身なので、起業を考えていただろうと言われることはありますが(笑)
事業の構想は、猫様と暮らす私自身の生活が原体験になっており、創業1年くらい前から考え始めました。当時は猫様の健康管理をしたいとまでは具体的に思っていたわけではなく、もっとシンプルな思いでした。「私がいないときに猫様は何をしているんだろう」「昨日と変化なく過ごしているんだろうか」みたいな。留守中、猫様がどう過ごしているかを知りたいという課題感があったんです。
見えない時間を見えるようにする…と考えていたところ、「私、それ研究してたじゃん!」と思い至りました。バイオロギング(動物のからだに小型のセンサーを装着し行動解析する研究手法)で海洋動物を中心とした研究をしていた経験があるのですが、「バイオロギングは猫様にも転用できるのでは」と思ったんです。
堤:海洋動物中心の研究を猫様に転用するのは非常に難しそうですが・・・
伊豫:難易度は高いものの不可能ではないだろうと考えました。猫様とバイオロギングに加え、私にはリクルートで10年ほどプロダクトや新規事業を開発していた経験があります。この3つの掛け合わせのバックグラウンドがあるのは、少なくとも日本には私しかいないだろうなと思ったんです。
ただ、そこからいきなり会社を立ち上げたわけではありません。リクルート時代に経験したプロダクト作りの進め方に則り、半年間かけて身近な人を中心に定性・定量調査を実施し、私以外の飼い主にもニーズがあるのか、500サンプルを集めました。その結果、ニーズがあると確信できたため、あとはプロダクトさえ作れればどうにかなると思ったんです。
そこで、本当に猫様に転用したバイオロギングができるのか自分で十数年ぶりに解析をしてみたんです。ペンギンなどに使用されているセンサーデバイスを既存の首輪に装着し、愛猫のブリ(Chief Cat Officer:ブリ丸)につけて。それで「いける」と思ったので、エンジニアに手伝ってもらいながらモデリングをしていきました。
髙田:RABO社を設立されたのは2018年2月ですね。
伊豫:2月22日、「にゃんにゃんにゃん」で猫の日です。ちなみに、実は私の誕生日は2月2日で、こちらも猫様に関係ある日なんですよ(笑)。
髙田:縁を感じますね(笑)。RABO社の基本理念は事業内容に根付いていて、目指すところが非常にわかりやすいと思っています。
伊豫:ありがとうございます。「すべては、猫様のために。」を基本理念とし、目指す世界観には「大切な存在を大切に想い、そして大切にできる世界」を掲げています。
このビジョンは社員合宿で決めたものなんです。猫様専用の事業に取り組んでいるとはいえ、社員全員が猫様と暮らしているわけではありません。ただ、猫様に限らず、大切な存在は誰にでもある。猫様を筆頭に、自分が大切に想うものに真っ向から愛を注いでいいんだよ、ということを世界に発信したいと思ったんです。その対象はパートナーもですし、お子さんも含まれます。「全力で愛することに時間を使ってください」というのが当社のスタンスでありビジョンなんです。
堤:Catlogブランドのビジョンやミッションも一貫性がありますよね。
Catlogのビジョンとミッション
伊豫:ミッションは創業初期から決めていました。「テクノロジー」と「1秒でも長く」というキーワードを大切にしています。
堤:社名やビジョン・ミッション・バリュー、すべての軸が本当にしっかりしています。だから、作るプロダクトにもぶれがない。グローバルにスケールする会社には、やはりぶれないビジョン・ミッション・バリューのベースが必要だと思っているのですが、RABO社はその3つが濃縮されている経営ができているんだなとあらためて感じました。これまで、事業を推進する中でどんなことに苦労されましたか?
伊豫:ソフトウェアの開発経験しかなかったので、ハードウェアについて理解するのに苦労しました。工場に足を運び、手書きの絵をお見せしながら「こういう首輪を作りたいんです」と説明して(笑)。ハードウェアに詳しい方に話を聞く中で、「だったらここの会社がいいですよ」と教えていただき、現在のハードウェア開発パートナー会社に出会うことができました。
STRIVEが感じた、多くの猫様や飼い主にヒットするCatlogが提供する”体験”
髙田:投資させていただく以前からコミュニケーションをとる中で、伊豫さんにはパワフルさや突破力があると感じていました。事業を進めるためにはそういった素養が重要だと思いますし、信頼できる社長だなと。投資以後もそのイメージに変化はないです。
STRIVE 髙田
堤:伊豫さんには強さとしなやかさがあるんですよね。猫様がしなやかなことも関係しているのかもしれません。バランスがいい方だなと。凹凸のないつるっとした感じではなく、個の立ち方のバランスが絶妙といいますか。だから、今後大変なことがあっても、持ち前の強さとしなやかさで乗り越えていかれるんだろうなと思っています。伊豫さんは私たちにどういった印象をもたれていましたか?
STRIVE 堤
伊豫:堤さんは私と同じ元リクルートということもあり、血の中にあるリクルート感に勝手に親和性を感じていました(笑)。見るからに穏やかな方で、何でも相談していい雰囲気、見守ってくださる包容力を感じますね。信頼しています。
髙田さんは堤さんから「猫好きキャピタリストがいる」とご紹介いただいて、オンラインでしばらくやり取りさせていただきました。後に弁護士でもあるとお聞きして、何かあったときにも頼りにさせていただけるなと(笑)。
髙田:おまけ付きで(笑)。
伊豫:髙田さんには年明け1月からと、早い段階からチームに入って伴走していただきました。どう巻き込んでSTRIVEのメンバーに伝えていくといいかをご相談させてもらって、毎週のようにミーティングをしていました。堤さんには、社内でコンセンサスが取れるまではフラットな立場で関わっていただきました。
堤:伊豫さんと最初にお会いしたのは、2年前のIncubate Campでしたね。そのときにSTRIVEが投資するステージはシリーズAがメインだとお話し、2020年末頃に再度ご連絡をいただきました。
伊豫:そうですね。「シリーズAだ」とお聞きしていたので、その言葉を素直に受け取り、「そろそろシリーズAに動き出します!」とご連絡させていただきました。その後調達を発表したのが2021年4月なので、約2ヶ月で投資まで進めていただきました。
堤:私と髙田の中では早々に投資の意思決定をしていたのですが、猫好き以外の人間にどう素晴らしさを伝えるのか考えることが必要でした。猫様は世界的に6億匹いるグローバルトレンドですし、マーケットは1.7兆円と大きい。ソフトウェア含めてバランスよく設計されているプロダクトなんだと知ってもらいたかった。ただ、初期段階ではハードウェアが絡むと投資判断においてはネガティブに捉えられがちな側面があるんですよね。
髙田:私は堤さんに「猫の案件があるぞ」と声をかけてもらったのが最初のきっかけです。猫好きキャピタリストとはいえ、投資判断はシビアに見なければなりません。健康管理だけだと健康意識の高い飼い主がどれだけいるのか、マスに通用するのかに不安があったのですが、プロダクトが提供する体験自体が楽しいものだったので、これはマスユーザーにリーチできるプロダクトだなと。事業自体に純粋におもしろさを感じられました。
堤:機能性と楽しさとのバランスを取るのは難しいですよね。RABO社のプロダクトはそのあたりをどのように考えられているのですか?
伊豫:まずはデザインです。それは見た目のきれいさだけではなく、体験も含めてのデザインをすべてにおいて重視しています。なので、デザイナーを役職者に置いて、経営の軸にすると決めていました。
堤:デザインが重要だと理解しながら、実践に至れている企業は意外に少ないですよね。経営の軸にデザインを置けたのはなぜでしょうか。
伊豫:ペットプロダクトにはなぜおしゃれなものがないのかという私自身の想いがありました。猫様に似合わない&家に置きたくないデザインのものは作りたくなかったんです。使うのは猫様ですが、購入するのは飼い主さんなので買っていただくためには、パッケージやアプリデザインも含め、スタイリッシュさが重要だと思っていました。猫様自体がスタイリッシュですから、そのスタイリッシュさを崩したくなかったんです。
髙田:RABO社のプロダクトには熱狂的なファンがいるなと感じます。SNSでの反響も大きいですよね。
伊豫:数万~十数万のバズが1年半で何度も起きています。アプリ画面のキャプチャに「猫になりたい」「こういう生活をしたい」と一言添えたツイートが14万いいねになったり。ユーザーの中で自然にバイラルしていきました。初期段階から「おしゃれ」「ほしい」「すごい」といった購入に紐づくようなワードで反応いただいているなと感じていました。
堤:今の組織規模はどのくらいでしょうか。
チームメンバーのひとり、Chief Cat Officer(Assistant) おでん
伊豫:15名程度です。少数ですが、その分精鋭揃いで、経験値・専門性の高いメンバーばかりです。各人がプロの領域以外の部分にも携わっていく形で事業を進めてきました。バックエンドを専門としていたエンジニアがインフラやIoTまわりまで染み出す、といった具合です。
堤:少人数でハードとソフトを手掛けるのは大変ですよね。この人数でここまでやられていることに驚いています。現在は事業のKPIや組織のモニタリングをしつつ、採用もサポートさせていただいています。
髙田:限られた時間でやるべきことを取捨選択しながらディスカッションさせてもらっています。弁護士としての専門知識も交えながら、医療機器の規制を踏まえたプロダクト設計や広告、知財戦略など幅広い領域で深い議論が進んでいます。
堤:伊豫さんは、深いところまで何でも相談してくれるのがありがたいです。同じ船に乗る一員として力になれますから。
伊豫:何でもすぐに相談させてもらっています(笑)。こちらこそありがたいです。
国内外で猫様と飼い主に愛されるプロダクトに。
髙田:RABO社の今後の展開についてお聞かせください。
伊豫:「Catlog」と「Catlog Board」の拡販とそれによる膨大な猫様データを活用し、冒頭でもお話しした「Catlogフードケア」など多方面に展開していく予定です。また、かかりつけ獣医にデータを連携できるようにし、これまで獣医が得られなかった普段のの猫様の情報を元に、診察のクオリティ向上にも寄与したいです。
中長期的には、グローバル展開もおこなっていきます。猫様の行動は万国共通なので初期からグローバル展開を志向していて、アプリUIなども海外でも通用するデザインをこころがけて設計してきました。
髙田:さらに猫様と飼い主に広がり、愛されるプロダクトになってほしいですね。Catlogで猫様との思い出を記録していけば、いつか来る別れのあとにもその記録が思い出を甦らせてくれると思うんです。人生をより良くするプロダクトになっていけると思っています。
堤:プロダクトが成長していく中で、圧倒的な猫様のデータ量が集まってきて、サービスを無限大に広げられる。これは世界的に見てもRABO社以外ないんじゃないかなと思います。グローバル展開等の数年先の未来を見据えて一緒に取り組んでいきます。