災害発生時の予期せぬサプライチェーン途絶による損失を予防するーー「儲からない」を掘り続けて市場を作り出したResilire 代表取締役 津田氏 × STRIVE 四方(モデレーター根岸)
災害発生時のサプライチェーン途絶に備えるリスク管理プラットフォーム「Resilire」(レジリア)を運営するResilire社が、2021年9月に1.5億円の資金調達を発表しました。すでに大企業数社をクライアントに持つBtoBサービスを25歳という若さで作り上げた代表取締役社長の津田 裕大氏に、STRIVE インベストメントマネージャーの四方がお話をうかがいました。
※モデレーター:STRIVE パートナー 根岸
把握できていないサプライヤーが災害時に予期せぬ損失を生む
根岸:津田さんとは今年4月からグロービスさんが開催していたアクセラレータープログラム「G-STARTUP」でメンターとして何度かお話しさせていただいていたのですが、最優秀賞を受賞されたということで、改めておめでとうございます!
津田さん(以下、津田):ありがとうございます!初めて根岸さんとお話ししたのはG-STARTUPになりますが、5分のピッチを聞いただけでプロダクトの性質や課題構造を認識いただいて。最初から良い議論をさせていただきました。
根岸:津田さんのピッチが良かったんですよ。災害に関する知見が少ない私にも分かりやすく、響くものがあって、すでに大手企業のクライアントもいて瞬間的にすごく面白いなと思いました。
四方:改めてになりますが、Resilire社が提供するサービスについてお話をうかがっていきます。
津田:「Resilire」は災害やサプライチェーンに影響を与えるようなインシデントが起きた際にどのような影響があるかを把握するためのリスク管理サービスです。例えば大手の自動車メーカーだと数万というサプライヤーが関わるのですが、多くの場合Excelでサプライヤーを管理していて、完璧な把握はできていません。そのためサプライチェーンが途絶されるようなインシデントが起きたときに、その影響把握が遅れてしまい供給が止まって大きな損失が出るということが実際に起きています。それを予防するのが「Resilire」です。
四方:なるほど、実際の利用シーンはどのようなイメージでしょうか?
津田:まずは平時にサプライヤーをツリー形式で整理していただきます。すでにエクセルで管理されていればインポートすることができます。直接的な委託先だけでなく、その先にいる原料調達先まで入力していただくことで、サプライチェーン全体の把握が可能になります。
そして地震や河川氾濫、停電、土砂崩れなどが発生すると気象庁など行政の情報を自動で取得して影響範囲をマップ上に可視化します。被災の可能性が高い拠点やサプライヤーには一斉に確認メールを送りますので、回答を見たり連絡を取ったりして早期に全体像を把握することができます。
四方:災害は急に起こるわけですから、そういった不測の事態で迅速に動くための情報管理サービスということですね。大企業ですとサプライチェーンの全体像はどの程度把握しているものなのでしょうか?
津田:ほとんど把握できていないのが現状です。自社をTier0とすると、Tier1までしか見えていない企業がほとんどです。Tier1はTier2が見えていますがTier2をTier0に開示していなくて、それがTier3、Tier4と同じ構造になっています。
例えば今回のコロナ禍でも急に調達できなくなったものがあって、後から調べてみるとある品目が中国に依存してたというケースがありました。気付いてから対応したのでは遅くて損失につながるということが起きていたんです。
四方:誰も目をつけていなかった市場を見つけて事業を創るというのがすごいですよね。最初に聞いたとき、こんなところにホワイトスペースがあるのかとすごく印象に残ったのを覚えています。
良いものを作る。それだけではマーケットが生まれなかった
根岸:津田さんは今25歳ということで、22歳のときに災害ベンチャーを立ち上げたということですよね。その前は何をされてたんですか?
津田:僕は大学生時代、Webのデザイナーと飛び込み営業をしていました。その後大学4年では、Webの受託会社を知り合いと経営したりしていました。
根岸:起業は以前からしたいと思っていたのですか?
津田:高校時代から起業しようと決めていましたね。
根岸:すごい! 学生時代から熱いパッションをお持ちだったんですね。
津田:高校時代は居酒屋で3年間キッチンのアルバイトをやっていたんですけど、それがめっちゃくちゃ楽しくて。自分の成長を感じて、料理を出すのも早くなって美味しくなってお客さまに喜ばれる。それが自分の生きがいに感じられて、仕事って自分が人生で一番好きだと思えるものかもしれないと思ったんです。自分の人生、仕事で大きいことを成そうと決めて起業しようと決めました。
四方:そこから災害を軸にしようと決めるまでは、どんな経緯があったんですか?
津田:元々、事業をやるなら社会的に意義があるとか、インパクトを生めるものに魂を注ぎたいと思っていました。そんな中、2018年西日本豪雨を被災しました。3日くらい電気が止まって、冷蔵庫も動かないしお風呂も冷たい。その時に、最近異常に災害が増えていないか?と考え調べたことがきっかけになります。調べてみると、世界的に災害は非常に増えていて、今後も増えていくという試算が出ている。経済的な損失もどんどん大きくなっていく。それを予防するイノベーションを生み出さないといけないんじゃないか。そして被害を少しでも減らすことができればそれだけ大きい市場を作っていけるんじゃないかって考えたんです。
四方:最近も「記録的な豪雨」が当たり前のように起きてますからね。起業を決意して、何から始めましたか?
津田:最初は防災をテーマにしたWebメディアやボランティアを受け入れるための管理システムを運営していました。作ったら役に立つだろうと考えてて、実際にボランティアの受け入れ管理システムはけっこう使ってもらい、自治体から感謝状をもらえました。ただ、ビジネスには繋がりにくいサービスでした。
根岸:良いことはした!笑
津田:そうなんです。良いことをしただけで終わっちゃって…。投資家や起業家からも防災は儲からないから止めたほうがいいよって言われました。
その時に改めてじっくり考えていて、もともと「災害で生まれる経済的な損失を予防できたらそこにマーケットが生まれる」って考えてたんだよなって思い出したんです。原点回帰。「じゃあ一番予防したいと思ってるのは誰だっけ?」と考えて、大企業向けにしなくてはいけないんだなと気付きました。
根岸:なるほど。でも大企業にアプローチしてヒアリングするの難しくないですか?
津田:Webメディアを運営していたので、BCP(Business Continuity Plan)に取り組んでいそうな企業に「御社のBCPを情報発信しませんか?」とお願いしたらさまざまなお話をうかがうことができました。
根岸:メディアをやってたのが生きましたね。素晴らしいです。
津田:そうなんです。それでどんな課題を持っているのか、どんなことに取り組んでいるのかというのを集めていきました。
マーケットを深く掘れば金脈はある。「それを津田さんが解明した」
根岸:最初の1社を獲得するまでが大変だったと思うんですが、いかがでしたか?
津田:初めはBCPをDXするためのSaaSを作って大企業何社かでテストしたんですけど、実際の導入まではいかず、「“Nice to have”なサービス」という反応が多かったです。そんな時にプレスリリースを見て、「これってサプライチェーンのリスク管理できないですか?」というお問い合わせを大手の製薬企業様から頂きました。今までと違う視点だなと思って、ぜひ議論させてくださいと何回も担当の方とお会いしました。その度にFigmaでUI/UXのデザインを作ってフィードバックをもらうというのを繰り返しました。そこから1、2カ月くらいで「これならうちで導入したい」という話になり、実際に作ってテストして改善を繰り返し、結果有料導入もしてもらうことができました。
四方:Resilire社がすごいのは、超初期のシードフェーズに1本プレスリリースを出しただけで大企業から何社も問い合わせが来てるってことなんですよね。そんなにも課題感というか、ペインが深かったのかと驚きます。
津田:そうですね。僕自身も、わざわざ検索してよく見つけていただいたなと思うくらい関心を持ってくださって。やっぱり汎用的な課題だったんだなと再確認できました。コロナの需要もあるとは思うのですが以前からリスクは感じていて、でも良いツールが見つからないから一生懸命エクセルを使ったり、課題感を持ち続けていたりという企業が多い印象です。
根岸:儲かりそうな事業をやりたい方が多いじゃないですか。でも一見すると儲からなそうな災害の領域に決めて、粘り強く市場を探していくピュアなところは津田さんの強みだなと思います。グローバルも含めて競合もほとんどいない状態で、めちゃくちゃ先行してますよね。
四方:ピーター・ティールが言うところの「競合しないことが一番の競争優位性」ってことですね。津田さんがおっしゃっていた「儲からないと思われてるけど実は市場が大きい」みたいな視点が僕は好きです。災害だけでなく、他の領域でもあると思います。マーケットを深く掘っていけばちゃんと金脈がある。それを津田さんが解明したというのが面白いですね。
災害大国の日本発だから、グローバルで通用するプロダクトになる
四方:今回のラウンドでこれだけ魅力的な投資家たちを集めたことはすごいなと思っています。
根岸:津田さんと同年代でプレゼンに強みがあったり営業力があったりする人もいるんですけど、そこじゃなくて選んだ領域や、選んでからの歴の長さで圧倒的に勝ってると思います。
津田:今回のラウンドを進める中で、「本当にエンタープライズ向けに売れるの?(バックグラウンド的に)」という話もありました。
根岸:それはメンバーを採用すれば解決しますからね。でも、津田さんに会ったのが2年前だったら同じように感じるかもしれないですね。災害でピボットもしながら粘り強く続けてきたところと、すでにクライアントがついてるところが実績としてあるので、根気の良さだけじゃなくてセンスや作る力もあるんだっていうのが見えたと思います。
アクセラで伺ってただけでも相当成長されてたので、経営やマネジメントの伸びしろもかなり期待しています。
四方:僕も領域にこだわりを持ってるのは素晴らしいと思います。2019年の11月頃に初めて話してから今年に入って久しぶりに話しましたけど、災害というテーマがぶれてなかったことに驚きました。このマーケットから逃げずにやり切るんだろうなと感じさせる実直さは本当に津田さんの強みですね。それから投資家だけじゃなくてお客さまに対する姿勢としての素直さもある。その二つの強みは大きいです。
津田:四方さんは最初にお会いした時に30分ぐらいしか話せなかったんですけど、一瞬でうちの会社にポテンシャルを感じてもらって、すごいなと思いました。その時はまだ事業が儲からなさそうな感じだったので、僕が投資家だったら投資したいとは思わなかったと思います(笑)。すごく応援してくれそうな雰囲気を感じました。
これから海外のインシデントデータも取れるようにして、海外でも導入を進めていきたいです。実際に大手外資メーカーが日本支社で使っていただいているのですが、災害が多い日本でしっかり運用できることがわかれば、海外の本社でも導入したいと担当者が明確に言ってくれています。
根岸:経営者として組織を作って圧倒的に成長させて、グローバルに通用するプロダクトを作ってほしいなと期待してます!
四方:災害大国の日本だからこそ始める意味があるわけで、日本発のグローバル企業を作れたらすごく面白いなと思います。すでに製造業や製薬など、日本の経済を支えるような大企業から注目してもらっていると思うので、諦めずにやっていただきたいです。津田さんには人を引きつける力があるので、起業家から経営者への成長に期待しています。僕らもそこをサポートしてしていけたら良いなと思っています。
津田:ありがとうございます。頑張ります!