体験とインセンティブがコンテンツの価値を拡張する。NFTバブルの先にある新たな経済圏とは Gaudiy代表 石川氏 × STRIVE 古城・藤江

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2020年10月にシリーズAラウンドで3億円の資金調達を実施した株式会社Gaudiy。集英社やソニー・ミュージックエンタテインメントなど大手エンタメ企業と協業し、ブロックチェーン技術を活用したエンタメ領域のDX化を推進しています。2021年からNFTアートの高額取引が話題となり「NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)」がバズワードとなっていますが、エンタメは今後どのように進化していくのでしょうか。Gaudiy代表取締役の石川裕也氏にSTRIVE インベストメントマネージャーの古城、リサーチの藤江がお話を伺いました。

NFTバブルがもたらした「誤解」と「良い流れ」

石川さん(以下、石川):STRIVEさんのNFTに関するブログ記事がすごくわかりやすかったです。藤江さん、さすがですね!Gaudiy社内でも読まれてましたよ。最近のNFT関連の話題で注目してるものはありますか?

藤江:ありがとうございます。最近ですと国民的アーティストのNFTアートが気になりました。国民的アーティストがNFTを活用しているということで、インパクトが大きかったという印象です。Twitterのコメントを見ると仮想通貨に興味のある方たちが好意的な一方で、ファンはNFTが何なのかわからなくて置いてけぼりになっている感がありました。NFTの健全な普及に向けてどんなコンテンツが適しているのか、考えながら注目してます。

STRIVE リサーチ 藤江

石川:今は「NFT」という言葉自体が注目されていますが、ユーザーにとって大事なのはコンテンツや実用価値ですよね。NFTアートを見たいわけではなくて、作品を見たい。NFTゲームをやりたいわけではなくて、ゲームをやりたい。

NFTがバズって、ちゃんとしたビジネスマンが入ってきたのはすごく良い流れだと思います。「気づいたらNFTが使われていた」という世界が動き始めた。もちろん、まだキャズムは越えていません。今回のNFTバブルでも、元々保有していた仮想通貨が上がったから高額落札できているだけで、新規の人たちが買っているのはたかだか数万円程度のもの。資産を交換しているだけで、新たな消費は生まれていないんですよね。

また、NFTが正しく理解されているのかは気になります。「画像データにNFTが紐付けられていない問題」があって、ブロックチェーンに少し触れた方は、「アートそのものがNFTになっている」と勘違いしがちですね。所有権を移転しているだけで、アート自体は移転しないというのが誤解の元です。それならコンテンツをブロックチェーンに入れればいいというような発想になるんですけど……。

古城:ガス代が高くなる。

石川:そうですね。量子コンピューターが出てくればある程度は解決すると思いますが、今のイーサリアムネットワークではガス代が高すぎてSDGsからかけ離れています。イーロン・マスクがビットコインをやめた理由のひとつですね。

古城:スケーラビリティに関して、最近Layer2の話題を聞く頻度が増えてきましたね。

石川:基本的にはサーバと一緒で、分散性を低くすればするほど速くなるんです。なのでバランスですね。イーロン・マスクがTwitterでドージコインのブロックタイムとブロックサイズを10倍にして手数料を100分の1にできるとツイートしていましたが、イーサリアムのヴィタリックは「できない」とブログで反論しました。その記事をぜひ読んでほしいのですが、僕もめちゃくちゃ勉強になりました。確かになって。期待はするけれど、分散性がある限り難しい話ですね。

ユーザー目線でつくり切った企業に勝ち筋がある

古城:僕は最近、異なるブロックチェーン間の通信を可能にするPolkadot(ポルカドット)が気になっています。PolkadotエコシステムでEnjin(エンジン)がNFT専用のブロックチェーンを開発したり、パブリックチェーンを開発しているStake Technologiesが大きく資金調達したりしてますよね。個別に発展を遂げてきた様々なブロックチェーンの垣根を壊して、コミュニティー等が徐々に交わっていくのではないかと期待してます。

石川:今までNFTを扱ってた人たちってすごくブロックチェーンが好きな、分散型社会や分散型技術に対して投資をしてそこに正義を持っている人たちでした。しかし、PolkadotやMATIC(マティック)、Flow(フロー)等は分散性を少し落としてもユーザビリティーを良くするところに振り切っている。既存のNFTユーザーからすると「それ分散性じゃないよね」「駄目ですよね」という対象になるのですが、今の流れが勝つんだろうなと思っています。どれだけユーザー目線であるかということをやりきった会社が勝って、徐々に分散性をつけるというような方向性になる。なので僕らも最初はあえてパブリックチェーン的な使い方はせずに、プライベートチェーンで進めています。

藤江:NFTトレーディングカードゲームとして大ヒットしているプロバスケットボールリーグのトレーディングカードゲームを運営する方のインタビュー記事を読むと、彼らはマスユーザー向けの暗号通貨を意識させないUXによって成功したというようなことを言っていますね。

石川:それもあるとは思います。さらに今回は二つの要因が重なったと思っていて、ひとつは仮想通貨の上昇です。CryptoKitties(クリプトキティ)の時と同じで、事前に仮想通貨が上がっているんです。使い先を探してたところに新しい投資先が出てきたということですね。

もうひとつはNFTのマーケットに初めて大型IPが入ってきたということ。仮想通貨が上がったので今回も上がるだろう、という感じで、CryptoKittiesの価格上昇を経験した人たちにとって買わない理由がなかった。

藤江:なるほど。ユーザー拡大に貢献したと思いますか?

石川:結果的に貢献していますがUXで広げただけではなく、NFTカードの金額が上がったから広がったということかもしれません。

古城:仕手株みたいな感じですね(笑)。株価の急騰で多くの人が注目し、どんどん上がっていくみたいな。

「体験」と「インセンティブ設計」が価値を拡張する

藤江:今回、NFTがバズワードとして広がり、実際に大手のIPホルダーが入ってきました。一方、既存のIPホルダーはIPを中央集権的に管理したい傾向があり、ブロックチェーン的な思想とはなじまないような気もしています。

石川:IPホルダーこそ嬉しい状況だと思います。制御できるじゃないですか。今は、例えばリアルな本の場合、セカンダリーマーケットの収益は作家さんにも出版社にも還元されませんが、トラックされることでそれができるようになるんですよね。セカンダリーマーケットの収益がコンテンツホルダー側に還元されるようになる世界が実現するんです。

藤江:そのメリットは確かに大きいですね。実際IPホルダー側の温度感はいかがでしょうか?

石川:エンタメを作る人たちは面白いものを作りたいので、担当者はやりたい方が多い印象です。現在Gaudiyがお取り組みさせていただいている『約束のネバーランド』の編集担当の方は、初期に「やろう」「面白い」という反応でした。

今は、推進力のある人が「責任持ってやります」という第一段階を作れるかどうかが非常に大事です。僕らはそれに恵まれました。

古城:ブロックチェーンが裏側にあることで、複数ゲーム間でのアイテム移動や売買が可能になりますよね。そういう「横に移転する思想」ってユーザーとしては便利さが増すと思うんです。しかし、IPホルダーからするとユーザーが自社サービス以外に移動してしまったり、課金ポイントが減ったりとネガティブな側面もあるのではないかと思うんです。

石川:まず分散型のほうが価値が上がるし促進力があるというのが前提にあります。中央集権的に制御してもユーザーは他に面白いものがあれば逃げてしまうので、寿命を少し伸ばすくらいにしかなりません。分散型のほうが価値が上がるというのは、価値の移転のみで価値が上がるという意味ではないです。例えば免許証は持っていると運転できるだけではなくて取引所でeKYCになったり、レンタルビデオを借りたりできます。学歴も似てるかもしれません。この発想って「何かに変わる」じゃなくて、「何かにも使える」ということで、価値が拡張しているんです。一次発行者にとってものすごく価値が上がっているということなんですよ。

もうひとつ促進力で言うと、最近流行っている切り抜き動画の経済圏が良い例です。あらゆる情報がバイラルに拡散する世の中では、1人のマーケターがすごいプロモーションをするより、1,000人のファンに動いてもらったほうが拡散する。YouTuber全盛時代の一歩先がこの切り抜き動画です。これは共通インセンティブを作っているから拡散するんです。中央集権的な考え方でライセンスを絞ってビジネスをやっていた方々からすると、この発想は難しい。しかしこれからはテレビ番組も漫画も基本的には共通インセンティブで拡散させていくことになると思います。そして、その種をつくってる会社が一番強い。

藤江:電子書籍の会社の業績を見ると、海賊版サイトのマーケットが増えてくると売り上げが落ちるというような状況になっています。ブロックチェーンの技術を用いて、ライツとしてもハッピーな状態に持っていけるのでしょうか。

石川:海賊版は悪なのですが、電子書籍というマーケットを作ったのも事実です。ある一定数のイノベーションはイリーガルから出てくるんだろうなと思っています。ではブロックチェーンが海賊版サイトを制御できるかというと、できないです。なぜかと言うと、コピペされたら終わりだからです。なので、海賊版を読ませないようにするために重要になってくるのが、「体験」と「インセンティブ設計」です。

まず、読むという体験は簡単にコピーできてしまうのが現状です。最初に電子書籍が出てきたときはコピーできなかったけれど、すぐできるようになった。コピーできないものを常に作り続けていく、読むというOS自体を出版社やコンテンツ提供者がどんどんアップデートしていって、コピーしようとする人たちに追いつかれないようなものを作り続けるべきというのがひとつの発想です。

次に、ユーザーが「海賊版を読むよりオリジナルを読んだほうがいいよね」と思うモチベーションをインセンティブでどれだけハックできるかで、ここに対して投資をするべきです。例えば僕らの公式コミュニティはAppleの経済圏から離脱しているので、そこで買うほうが作家さんが喜んでもらえる。海賊版を読んでもポイントはもらえないけど、公式から出るものを買うことで限定コンテンツが手に入ったり、ポイントがもらえたりする。そういうインセンティブ、モチベーションを作っていくべきです。

藤江:お話を伺っていると、より多くのIPホルダーさんにNFTに前向きに取り組んでほしいと感じますね。大切なIPを冒険させるのは慎重にならざるを得ないかもしれませんが、より多くの人たちにより長く愛され続けるために、こういった仕組みを取り入れることも検討してほしいと思います。

石川:そうですね。まあ、まだNFTってよくわからないっていうのが踏み込めない要因だと思います(笑)。

「気づいたら使ってた」をつくれた者が勝つ

古城:体験とインセンティブでいかにユーザーに受け入れてもらえるものを創りあげられるかどうか。まさにGaudiyが提供しているサービスそのものですが、それができないとブロックチェーンの押し付けにしかならないですよね。Layer2でセキュリティの話も出てきていますが、程度の問題ではあるものの、たまにセキュリティ問題が発生しても純粋にユーザー体験が良いほうが広がっていくのかなとか思ったりもしています。

石川:おっしゃる通りだと思います。バランスなんですよね。ユーザー体験として良いものがあるかどうかで。例えば『鬼滅の刃』の映画がめちゃくちゃ遠くの離島だけで上映されたとして、UXめちゃくちゃ悪いけど観に行くじゃないですか。仮想通貨もめちゃくちゃ難しかったけど、儲かるからみんな始めたわけです。

藤江:私は漫画などを電子書籍で買っていて、そのプラットフォームで読んで完結するということにいままで疑問を持っていませんでした。しかし、第三者に売れるとか交換ができるとか、電子書籍の二次流通まで含めたプラットフォームがあれば、そちらを使うだろうなと思いました。

石川:そういうことですね。例えばYouTubeはAIがめちゃくちゃ使われてる超AIプラットフォームですが、みんなAIのことなんか考えてない。シンプルにブロックチェーンでやったほうが世の中が良くなるよねって思想の人がちゃんと流行るサービスを作ったら、そのまま主流になっていくと思います。

古城:気づいたら使っていたということの戦略を作れる人たちが勝つ。それこそがGaudiyだと思ってます。

藤江:楽しみですね。今日はありがとうございました!