世界中の手動テストをノーコードで自動化するーーAIテスト自動化プラットフォーム「Magic Pod」を展開するTRIDENT 代表取締役 伊藤氏 × STRIVE 髙田
AIテスト自動化プラットフォーム「Magic Pod」を運営するTRIDENT社。導入企業は500社を超え、2021年7月には3億円の資金調達を実施して採用強化中です。TRIDENT 代表取締役の伊藤 望氏に、STRIVE インベストメントマネージャーの髙田がお話をうかがいました。
■アジャイル開発で必要性を増すテスト自動化
髙田:ソフトウェア開発のサイクルが加速する中で、ソフトウェアテストの工数が増大しています。これを自動化するためのプラットフォームが「Magic Pod」ですが、具体的にどういったプロダクトか教えていただけますか?
伊藤さん(以下、伊藤):「Magic Pod」はノーコードでテストの自動化を実現させるプラットフォームです。アプリケーションの画面をスキャンするとAIが項目を自動検出します。ユーザーはそれを選択していくだけで簡単に日本語のテストスクリプトを作ることができます。コンセプトムービーを見ていただけるとイメージしやすいと思います。
髙田:これまではテストを自動化するためにコードを書く必要がありましたが、「Magic Pod」を使えば非エンジニアでもテストケースの作成と運用ができるということですね。
伊藤:そうですね。UIに変更があった際もAIが自動でテストスクリプトを修正するので、コードが書ける人もメンテナンスの手間が少なくなります。
髙田:LINEやSansan、noteやメドレーといったIT業界のリーディングカンパニーが多数導入しているのが「Magic Pod」の品質の高さを物語っていますね。最近、さらにテストの自動化が注目されるようになったのはなぜでしょう?
伊藤:以前は、ソフトウェアを一度開発したらそれで終わりという「ウォーターフォール型の開発」が主流でした。しかし最近は、迅速にリリースしてユーザーの反応を見ながら細かく改良していく「アジャイル開発」が増えています。そのためリリースの間隔が非常に短くなり、例えば週に2回リリースすればテストも週に2回発生するということになります。
髙田:その間隔だとほとんど同じテスト作業を繰り返すことになりますよね。
伊藤:そうです。だからと言ってテストを怠ると、「ユーザー登録しようとしてエラーになる」、「課金しようとして失敗する」等のビジネスに直結する問題に繋がってしまいます。海外では既に8割程度が「アジャイル開発」になっていて、これから日本も増えていくと思います。手動でテストするのには限界があるということで、自動化の必要性が高まっている状況です。
■ノーベル賞に匹敵する価値を、ビジネスで生み出す
髙田:伊藤さんはテスト自動化の第一人者と言えるほど長く携わっていますが、なぜ自動化に取り組もうと思ったんですか?
伊藤:もう10年以上前になりますが、新卒で入社したワークスアプリケーションズでの業務がきっかけでした。入社後1年ほど会計ソフトの開発エンジニアをしていまして、当時はテストが不十分で、リリースした後のトラブル対応に追われてさらにテストの時間が削られるという悪循環に陥っていました。
これはなんとか効率化しないといけないと思い、いくつか世に出ているテストツールを使ってみたのですが、技術的に合うものがなくて自分で開発することにしました。もともと、休日に業務改善ツールを作ることが趣味だったので、今度は「テストツールを作ってみよう」と試してみたんです。すると、2、3日で「操作を記憶させて実行する」ツールができて、上司の許可をもらいサポートメンバーを加えて正式に開発を開始しました。最終的に2、300人ほど在籍していたテスト担当のチームメンバーが私が開発したツール使うようになりました。
TRIDENT 代表取締役 伊藤 望氏
髙田:めちゃくちゃ優秀な社員ですね(笑)。自動化に取り組む前はエンジニアとしてこういうものを作りたいという想いはあったのでしょうか?
伊藤:大学院ではコンピューター領域の研究室に在籍していたのですが、その時点ではエンジニアではなく、起業家の道を考えていました
髙田:起業は早くから考えていたんですね。
伊藤:大学時代は、ノーベル賞を取るような研究者を目指していました。その後、大学院に進学し、優秀な周囲の仲間をみて、私は頭1本で勝負するよりバランス型だなと気付き、学問ではなくビジネスでチャレンジしようと思いました。ただ、もともとノーベル賞受賞を目指していたのを諦めるのだから、それに匹敵するくらい新しい価値を世の中に生み出したいと思って起業しようと決めたんです。
髙田:起業にはノーベル賞を目指すくらいの野心が秘められてたんですね。当時、何か事業の構想はあったんですか?
伊藤:あればその時点で起業していたと思いますが、まだ何もありませんでした。まずは社会人経験をそれなりに積んだほうがいいだろうと思い、当時非常に勢いのあったワークスアプリケーションズに入社しました。
同社のエンジニアとして、フロントもバックエンドも幅広い領域を任されたので、さまざまな経験を積むことができました。そして、その中でも自動テストのような技術的に難しい分野に興味を持ち、自身のバリューを発揮できるようになり、一番強みになったのかなと思います。
■課題は顕在化している。サービスを開発すれば絶対に使ってくれる
髙田:ワークスアプリケーションズで「テスト自動化」に出会って、ついに独立したという経緯だったんですね。
伊藤:そうなんです。テストを手動ですることは非常に大変で、あまり良いソリューションもない。その分、どの企業も工数やお金をかけているのでマーケットも大きいと思いました。当時はまだクラウドではなくほぼインストール型のプロダクトだったので、ブラウザテスト用に誰でも使えるものを開発しようと思って独立したのが2012年のことです。
最初は、ワークスアプリケーションズ時代に成功した「覚えて再生する」という仕組みをブラウザテスト向けに開発しようと思い、通常は既存のOSS(オープンソースのソフトウェア)を利用して実現するような自動操作のエンジンまで丸ごと自作しようとしていたのですが、これはさすがに目標が壮大すぎました(笑)。ちょうどその頃、そういったOSSのWeb自動テストツールがかなり成熟してきたので、「このツールで課題は解決されるかもしれない」と思って開発を諦め、その自動テストツールの導入支援を3、4年ほど行っていました。
髙田:そこから「Magic Pod」を開発しようと考えたのはなぜですか?
伊藤:既存の自動テストツールを導入してもテスト結果のレポーティングや、毎日実行できるインフラ等いろいろ足りない機能がありました。何社か支援しましたが、結局どの企業も同じようなツールを作り込むことになるんです。世の中を見ても各社同じような状況になっていて、非効率的だなと思いました。
そういった状況の中、新たにAIという技術がトレンドとなりました。ディープラーニングなどを活用すれば新しいプロダクトとして実用化でき、問題を解決できるんじゃないかと思ったのが「Magic Pod」開発のきっかけです。
また、私が独立した頃は、商用のツールより無料のオープンソースを利用するほうがイケてるみたいな風潮があったのですが、2017年頃になるとGitHubやAWSの台頭で、SaaSの導入・活用が一般的に行われるようになったんです。このようなトレンドが来たのも開発の後押しになりました。
髙田:確かに、スタートアップ業界でも、その頃から”SaaS”が盛り上がり始めました。ようやく「Magic Pod」に時代が追いついた感じですが、独立から5年ほど経つ中で、テスト自動化ツールの開発は諦めてそれ以外のビジネスをやろうとは考えなかったのでしょうか?
伊藤:もちろん迷いはありました。しかし、どう考えても手動でやるより自動のほうが合理的ですし、実際にみんな困っている。マーケットもあってユーザーのペインも非常に大きくて、ソリューションさえあればみんな絶対に使うはずだと思って続けました。
髙田:5年、6年の苦難を乗り越えて、「Magic Pod」という新しい価値が生まれたわけですね。
■ビジネスサイドのメンバーが不足している今、ハンズオン支援に助けられている
髙田:「Magic Pod」のユーザーが増え、TRIDENT社の組織拡大が必要になる中で日に日に経営者としての仕事が増えていると思います。まだコードは書いていますか?
伊藤:書ける時間が否応なしに減っています。会社として優先順位があるのでわかってはいますが、好きなので書きたいですね…(笑)。
髙田:そうですよね(笑)。「Magic Pod」のようなエンジニア向けツールは、エンジニアに「本当に良いツールだな」と思ってもらうことが欠かせない。テックブログ等で紹介されて評判が広がっていくのが理想と思っています。プロが使うので、無理に売っても質が悪ければ結局チャーンが増えてしまいます。
なので、エンジニアメンバーが最も重要ですが、ビジネスサイドの動きが遅くなってはいけない。どうバランスを取っていくか悩みどころですね。
STRIVE インベストメントマネージャー 髙田 洋輔
伊藤:これまでビジネスサイドの採用は積極的に行っておらず、社内の必要業務全般を私が行っていました。直近は、ビジネスサイドやバックオフィス業務を支えるメンバーを採用し、いかに私が経営に集中できる環境を整えていくかを考えています。ただ、STRIVEのメンバーが広報や採用をサポートしてくれているのは非常に助かっています。髙田さんとも経営的な決定事項だけでなく法務問題も含め、さまざまなトピックを議論しながら事業を進めています。
髙田:ありがとうございます。STRIVEはハンズオンで支援するコミュニケーションズパートナー(広報)やタレントパートナー(採用・人事)が各領域のエキスパートとして在籍しています。創業期のスタートアップがリーチしにくい主要メディアと連携することができたり、採用母集団の形成からエージェントの活用、面接と採用後のフォローアップまで幅広くサポートすることができます。
現在、特に採用強化中ですが、メンバーの働き方や役割について教えてください。
伊藤:多少の分担はありますが、エンジニア全員がフルスタックエンジニアとして分業しないでさまざまな実装・開発を行っています。そのほうがユーザーに届けるものを作っている感覚が得られるんですよね。ものづくりの醍醐味を体感してもらえるような環境づくりをしています。
髙田:TRIDENTのエンジニア採用では、かなりレベルの高いコード試験をクリアした人だけにオファーを出す方針にしているので、ハイレベルなエンジニアチームを維持していけるのではないでしょうか。他方で、エンジニア以外のメンバーにはどのような役割を期待していますか。
伊藤:今はエンジニアだけでなくビジネスサイドの採用も積極的に行っています。「Magic Pod」はエンジニア向けのプロダクトなので、ソフトウェア開発の領域が好きな方で、プロダクトを深く理解し、エンジニアの課題解決に真剣に取り組むことのできる方にメンバーの一員になってほしいです。TRIDENTはいま事業急拡大の中にあり、ビジネスサイドも立ち上がり始めたばかりなので、スタートアップにおいて一番面白いフェーズを経験することができると思います。
伊藤:STRIVEのみなさんとしては、TRIDENTへの出資の決め手はどこにあったのでしょうか?
髙田:もともと「DevOps」と言われる領域のツールに注目していました。しかし、いろいろなSaaSがある中で、国産でプレゼンスを発揮してるものはほとんどない。その中で、2018年にTRIDENTが実施した資金調達のリリースを見て、私のほうからご連絡しました。
テスト自動化のマーケットは今後拡大するというデータがあります。手作業で行うテストが大きな負担になっているということで課題が明確ですし、それを自動化するというのはソリューションとして的確です。ユーザーヒアリングでも、「Magic Pod」のテスト自動化は、モバイルアプリとブラウザの両方についてユーザーから非常に高く評価されていました。TRIDENTにはテスト自動化領域のエキスパートが集まっていますし、投資検討はスムーズでした。
伊藤:実際、投資を決めていただくのは早かったです。そういう意思決定の速さは今後あらゆるコミュニケーションで重要になってくると思います。そこもSTRIVEで良かったと思う点です。
髙田:ありがとうございます。
■「Magic Pod」をグローバルで通用する製品に育てる
髙田:伊藤さんとしては、TRIDENTをどう成長させていきたいですか?
伊藤:世界中のエンジニアが使う製品を提供する企業を目指しています。GitHubやSlackは一つの製品で非常に大きな企業に成長しましたが、テスト自動化はそれができるくらい需要のある領域だと思います。10年後も「Magic Pod」だけを提供している可能性はありますが、テスト自動化と言っても画面操作以外にセキュリティーのテストや負荷テスト、速度テスト、プログラムの解析とかいろいろな分野があります。それらの品質管理を総合的にサポートするツールにしていきたいと思います。
髙田:こういう開発系のツールはグローバルに展開できる可能性が十分にあり、「Magic Pod」も海外で通用するプロダクトです。我々の投資も、「なぜ日本から開発領域でGitHubのように当たり前に使われるツールが出ないのか」という疑問からスタートしました。まずは国内市場でサービスを拡大し、その後にグローバルでエクイティストーリーを描けるような会社になるよう成長してほしいと思っています。
伊藤:今後もいろいろSTRIVEのメンバーと議論しながら進めていきたいですが、まずは採用に注力したいです。エンジニアに関してはレベルの高いチームを作れていると思いますので、経験値の高い人でも十分に手応えがあると思います。エンジニア経験が浅くても、フルスタックエンジニアとして成長する機会を提供できると思います。ぜひ積極的に応募してほしいです。
髙田:ビジネスサイドも立ち上がり始めていて、すごく面白いフェーズだと思いますので、興味があればぜひご連絡いただきたいです。投資検討した際にチームメンバーにもヒアリングさせてもらいましたが、みなさん伊藤さんをすごく信頼されていました。これからすごく良い会社を作っていけるんじゃないかと感じています。頑張っていきましょう。
今日はありがとうございました!
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