「テクノロジーの力でM&Aに流通革命を」を掲げ、本気で10兆円企業を目指すM&AクラウドCEO 及川氏 × STRIVE 四方

投資先by STRIVE

オンラインM&Aマッチングプラットフォーム「M&Aクラウド」を運営するM&Aクラウド社。プラットフォームの掲載買い手企業は400社を超え、2021年2月に立ち上げたアドバイザリー事業も好調です。10月にはSTRIVEをリードインベスターとする10億円の資金調達を実施しています。今回の投資決定のポイントや今後の事業展開について、M&Aクラウド 代表取締役CEOの及川 厚博氏と、STRIVE インベストメントマネージャーの四方が語り合いました。

M&Aの健全なサイクルが、スタートアップの長期的な成長を促す

及川さん(以下、及川):STRIVEさんには4年前、シード期にも一度コンタクトさせていただき、プロフェッショナルな方がそろったVCさんだなと感じていました。今回、4年越しで支援いただくことになり、とてもうれしいです。

四方:4年前は私はまだジョインしていなかったのですが、その際の投資検討メモが社内に残っていました。それを見ると、当時ビジョンとして語られていたことが、今ほぼ実現されています。

及川:当社では、最初の面談に伺ったCOOの前川とCFOの村上が「四方さんはとても熱くて、誠実で、当社のミッションに深く共感してくださる方だ」と絶賛していました。四方さん自身、もともとM&A業界に対する課題感をお持ちだったのでしょうか?

四方:今、日本のスタートアップへの投資額が増えて5,000億円近くになり、IPOのリターンで吸収できる範囲を超えつつあります。そう考えると、M&Aの健全なサイクルをつくっていくことが、スタートアップの長期的な成長に欠かせないと感じています。

もう一つ、私は学生時代に起業経験があり、自分の事業を先行きどのように手放し得るのか、全く分からないという不安を抱えていました。以来、いつも頭の片隅でモヤモヤと解決策を探していたので、M&Aクラウドさんと出会ったときはピンと来るものがありました。「もしかしたら、これかもしれない」と。

面談では、前川さんと村上さんが冒頭で、「僕らは時価総額10兆円企業を目指してます」と言われたんです。それを最初に言う方はなかなかいないですし、プレゼンを聞いているうちに「この人たちは本気なんだな」というのが伝わってきました。その後、2回目の面談で及川さんにお会いしたらまた熱くて、「ああ、このCEOがいるから……」と腑に落ちました(笑)。

及川:当社はどのVCからも気合いをほめられるんです。いいのか悪いのか……(笑)。

四方:重要だと思いますよ。経営陣のマインドにキャップがされていないというところですね。

あと、御社の場合、及川さん、前川さんのお二人とも、M&Aクラウドが2社目の起業ですよね。1社目よりもさらに大きな事業をつくりたい、ホームランを打ちたいという思考になるんだろうなと思っています。

グロースステージで問われる、組織の成熟度と“第二の矢”の有無

及川:今回評価いただいた最大のポイントは、やはり本気度ですか。

四方:チームのスピード感も大きな要因です。投資検討段階で行うQ&Aのレスポンスも速かったですし、投資条件のタームシートをお出しした際もスパっと決断されました。この意思決定の速さは事業運営にも反映されているだろうなと感じました。

Q&Aの中で、かなり細かく「こういうKPIって見ていますか?」とお聞きしたところ、パパっと数値を出していただき、かなりゴリゴリ数値を見ている印象でした。適切なKPIを追うカルチャーが根付いている会社は、プロダクトの機能開発や営業・マーケの施策や上段の戦略も話しやすく、戦略や登り方の議論を重視する我々のスタンスと合いそうだと思いました。

及川:Q&Aなどは今回、自分も前川もノータッチで。村上やコーポレートのメンバーが全部対応してくれたんです。

四方:グロースステージで、しっかり権限委譲されているというのは、組織の成熟度が高い証拠ですよね。

また、特にグロースステージの企業へ投資検討する際、事業の第二の矢がつくれているかどうかも、よく社内で議論のポイントになります。第一の事業だけだと、どこかでキャップが見えてしまうことがあるので。御社の場合、第二の矢であるアドバイザリー事業がすでにかなり好調、かつ伸びしろもあり、説得力がありました

及川:ほかにどんな論点がありましたか?

四方:M&Aクラウドと同じ事業に新規のプレーヤーが参入してくるか、もしくは既存の事業者が新規事業として始めるか、その可能性については議論がありました。ただ、村上さんともお話ししていく中で、事業の構造上、実はかなり参入障壁があることも理解できました。すでにいくつかのプレーヤーが参入しようとして撤退したというファクトも集められたので、懸念が解消されました。

及川:そうですね。単純にメディアをつくるという意味では参入障壁があまりないと見られるかもしれませんが、やはり買い手と売り手を一定数集め、成約数も積み上げていかないとユーザーに信頼されないですから、先行者優位はかなりあります。かつ、他社が参入してくることは当初から予想していたので、参入した会社があきらめざるを得なくなるように、優位性を確保する仕掛けづくりも意識してやってきました。

M&Aクラウド 代表取締役CEO 及川 厚博氏

投資検討時のポイントは、登る山の大きさと登り方、“風”の吹き方

及川:当社は、M&Aや資金調達のブラックボックスな部分をオープンにしていくことを掲げている会社なので、この機会に、STRIVEさんがいつも出資検討時に軸にされている観点を詳しく伺いたいのですが。

四方:ざっくり分けて、マーケットとチームという2つの観点があります。

マーケットに関しては、まず登る山が大きいかどうか。ここが大前提です。そのうえで、登り方ももちろん重要ですし、少し抽象的ですが「風の吹き方」も大きい要素です。たとえば、規制が厳しくなる、もしくは緩和される、M&A業界であれば、事業承継ニーズが高まっている。そういった、マーケットにおける潮流ですね。

チームに関しては、先ほどの「山の登り方」を気持ちよく議論できる経営陣かどうかを重視しています。マーケットを一番知っているのは起業家のはずなので、まず自分たちの仮説はしっかり持っていてほしい。一方で、「この考え方しかあり得ない」と視野が狭くなってしまうと議論が成り立たないので、そのバランスを見ています。一度投資したら数年にわたるお付き合いになりますし、お互いにいい関係性を築ける素地があることが大事だと思います。

及川:STRIVEさんの中でも、キャピタリストによっては投資検討の観点が異なる部分もあるのかなと思うのですが、四方さんはいかがですか?

四方:それでいうと、私は比較的マクロな視点に立つ方です。「このサービスの社会的なインパクトは?」「それによって誰がハッピーになる?」といった部分が気になるタイプかなと。

及川:やはり、そうなんですね。投資後の関わり方については、四方さんはどんなスタンスですか?

四方:今回のように社外取締役として関わらせていただくケースでは、特にガッツリ支援します。もちろん投資先の皆さんのニーズ次第ですが、土日も含めて毎日話していることもあります。経営戦略の話、採用の話、組織内のトラブルの話など、幅広く議論しますし、ヘルプが必要であれば随時対応します。

私自身が起業していたときに、組織運営でいろいろ悩んだんですよ。今振り返ると、自分が未熟だったと思う部分も多いですけれども。なので、実務面だけでなく、精神的な面でも、しっかり寄り添えるキャピタリストでありたいと思っています。

STRIVE インベストメントマネージャー 四方 智之

及川さんは起業家として、投資家に対してどんな関わり方を期待しますか?

及川:当社の場合、やはり「時価総額10兆円」という大きな目標を見据えているので、そこを共有したうえで応援いただきたいと思っています。山の登り方については、僕もいろいろな議論を柔軟にしていきたいですが、それ以前に、投資家からいつ「自分たちはここで降ります。あきらめて早くExitしてください」と言われるか分からない状態だと、起業家としては背中を預けられないんですね。これはしんどいです。

当社はバリューの一つに「1 Team」を掲げていますが、投資家の皆さんにも、立場は違えど同じチームの一員として関わっていただけると一番うれしいです。

スタートアップM&Aで勝ち切るために、型化を図っていく

及川:今後のM&Aクラウドに対する期待を聞かせてください。

四方:冒頭お話ししたように、今、日本のスタートアップエコシステムの中で足りていないのがM&Aだと認識しています。なので、M&Aクラウドにとっての一つ目の大きな山であるスタートアップM&A、まずはここで勝ち切ることが、日本のスタートアップ全体の成長にもつながると思います。アメリカでは90年代にIPOとM&Aの比率が逆転していますが、日本でも2020年代のうちに同じ変化が起きる気がします。M&Aクラウドとしては、その中心にいたいですよね。

及川:スタートアップM&Aに関しては今、フロントランナーではあると思うのですが、ここから勝ち切っていくためには、やはりネームバリューのあるディールをどれだけ決められるかがカギになると思います。最近、スタートアップ業界でも100億円を超えるディールがかなり出てきているので、そういう相談をどんどん頂けるようにならないといけない。かつ、大型案件をいくつも手がけていくためにはアドバイザーの人的リソースも拡充する必要があります。

もう一つ、今のスタートアップM&Aには型がないという課題があるので、当社で型化をしていきたいです。現状、たとえばDCF(Discounted Cash Flow)で企業価値を示したところで、実際には不確実な要素が多すぎて、あまり参考にはならないですよね。結局、買い手から見た企業価値というのは、大半がシナジーへの期待じゃないでしょうか。そう考えなければ、世間を騒がせている大型ディールのバリュエーションを説明できないですから。

四方:スタートアップのバリュエーションはある種アートというか……のれんの部分をどう見るかは、完全にその買い手次第ですよね。売り手からすると、普通は1回目のEXITですし、どんな見せ方をすべきか分からないケースが多いと思います。そこを型化するのは面白いチャレンジですし、実現できればスタートアップM&Aに変革を起こせそうですね。

及川:売り手にとって、買い手から見た自社の企業価値を把握しようと思ったら、まずその買い手の経営課題を知らないといけない。当社は買い手掲載型のプラットフォームを運営しているので、買い手各社のリアルタイムの課題やホットな買収ニーズが集まってくる立ち位置にいます。この強みにテクノロジーを掛け合わせることで、型を見出していきたいですし、当社がやらないといけないことかなとも思っています。

四方:GoogleがYouTubeを約2,000億円で買ったときも随分騒がれましたが、今やYouTubeの売上は年間2兆円規模ですからね。YouTube単体であそこまで行けたかと考えると、やはりGoogleと組んだからこそという面があるでしょう。

Googleは1カ月に1件ペースでM&Aをしている中で、いくつも成功例を生み出していますが、日本でも年間複数件買うような会社をどれだけ増やしていけるか。この点も大事ですよね。私も一緒に考えていきたいところです。

及川:日本でスタートアップM&Aが定着しないのは、「買っても、結局儲からない」という認識があるせいだと思いますが、Googleのような企業が出てくれば、その認識を変えていけるはずです。単にM&A件数を増やしていくだけでなく、成功するM&Aを増やしていくために何ができるか、追求していきたいですね。

買い手データベースを武器に、事業承継領域を攻略していく

四方:スタートアップM&Aを一つ目の山とすると、M&Aクラウドにとって二つ目の山になるのが事業承継ですよね。ここを取りに行ければ、本当に最終的に1兆円、10兆円というところが見えてくるのかなと。

及川:そうですね。ここでもやはり、核になるのは当社の買い手データベースとブランドだと思っています。それを最大限に活用しつつ、地方の売り手を集めるためには、地銀や会計事務所との連携も進めていきますし、並行して事業承継希望の売り手向けのソリューションもつくっていくつもりです。

となると、ソリューション開発ができる人材も必要になります。先ほどのネームバリューのあるディールを手がけていく話でも出ましたが、やはり採用活動にブーストをかけていくことが、今後当社がやるべきことをやっていくための大前提だと思っています。

四方:採用に関しては、当社には「タレントパートナー」という専門部隊がいますので、ガッツリ支援できます。さらに、今の数十人の組織から、いずれ数百人の組織になっていくと、ブーストのかけ方も変えていく必要が出てくるでしょうから、そのあたりもサポートしたいと思います。

数百人の組織になれば、及川さんの役割も、現場のオペレーションもいろいろと変えていかないといけないですよね。必然的に成長痛も出てくると思うので、そうした場面でもぜひご相談ください。

及川:ありがとうございます。ぜひいろいろと相談させてください。

僕も投資いただいたからには、四方さんの投資先の中で一番のリターンを出したいですし、四方さんの人生を変えるようなディールにしたいと思っています。一緒に10兆円企業をつくっていきましょう!