スタートアップPR〜資金調達発表のPR戦略〜

STRIVEby STRIVE

先日、STRIVEの投資先企業でPRに携わる方々が集まり、PR座談会を開催しました!

今回のPR座談会のテーマは「資金調達PR」。2022年4月に資金調達を発表した株式会社RABO naoiさんとアスエネ株式会社 伊集さんにご登壇いただき、資金調達の発表におけるPR戦略や、スケジュール、メディア連携などについてお話しをうかがいました。
※掲載写真はKaleidoWorks CrossOver Loungeにて撮影したものです

登壇者

株式会社RABO ミャーケティング/PR/グローバル naoi
RABO コーポレートサイト
RABO プレスリリース

アスエネ株式会社 広報 伊集 理予
アスエネ コーポレートサイト
アスエネ プレスリリース

STRIVE コミュニケーションズパートナー 田原 朋恵

資金調達の発表までのスケジュール感

田原「まず、資金調達の発表までのスケジュールについてうかがっていきましょう」

naoi「RABOは、4月6日に資金調達を発表しました。発表の約1ヶ月前から準備を始めました」

伊集「アスエネは、4月13日に資金調達を発表しました。約2ヶ月前から社内にプロジェクトを作り、週一回の定例会でタスクの進捗確認やKPIの管理などを行い、進めていきました」

田原「実際の具体的な動き方について教えてください」

伊集「プロジェクトメンバーは経営陣、広報担当、採用担当の5名ですが、私と代表、採用担当の3名がメインで進めました。社外に関しては、STRIVEさんをはじめ、VCとの連携を最初に行いました。その後、4月の具体的な掲載日を調整して進めていきました。

メディアへのアプローチについても、まずは自社のリレーションやVC経由でご連絡できそうなメディアを選定し、4月からはPR会社を一部活用して動きました」

田原「PR会社を活用した経緯やメリットはいかがでしたか」

伊集「当初はPR会社を活用することは考えていなかったのですが、広報が私ひとり、かつ専任ではなかったのであまり広報に時間を取れず、取材をお願いしたいメディアへのアプローチができていませんでした。そこで、PR会社と連携する案が出て、3月の中旬に選定し、4月1日から動いていただきました。

アスエネの事業にマッチする、サステナビリティ・環境系の領域に精通していて想いのある方のいるPR会社を選定しました。結果的に、自分たちでは手の届かなかったメディアにも広くアプローチすることができたので連携できてよかったです。今回、発表日である4月13日のタイミングで10社以上のメディアに資金調達のニュースを掲載いただきました」

naoi「基本的にはアスエネさんと同じで、資金調達の発表を行うことを決めた時点で社内でプロジェクト化しました。メンバーは、私と代表、そして田原さんにお手伝いいただき3人で進めました。伊集さんと異なる点ですと、RABOの資金調達ではトピックのひとつに大手事業会社との資本業務提携のお話もあり、取材でもフォーカスされることが考えられたので、ステークホルダーとの連携も意識したスケジューリングをした点です」

田原「大手事業会社との連携は、何名くらいの方とどのようにしてお話を進めていたのですか」

naoi「投資していただく前から一緒にキャンペーンを実施していたこともあり、窓口は代表の伊豫が対応しました。先方は広報をはじめとした4名です」

田原「プレスリリースの発表と連動した取材記事においては、関係先との連携が不可欠です。今回のRABOのように、誰の事前確認が必要か、記事の修正に関して認識の擦り合わせができているかなど、丁寧に進めましょう」

ターゲットメディアの選定

田原「今回の資金調達の発表で連携されたメディアについて教えてください」

伊集「日本経済新聞をはじめとした新聞媒体、スタートアップや資金調達を取り上げるメディアで掲載いただけるよう進行しました。

進め方としては、自社やVC、PR会社のリレーションから繋いでいただくほか、問い合わせフォームからプレスリリースのドラフトを送って打診するというやり方です」

田原「RABOはどのようにメディア選定を進めていきましたか」

naoi「基本的には既存のリレーションがあるメディアから選定し、プレスリリースのドラフトをお渡ししていきました。

大手事業会社との資本業務提携と、新規株主のMPower PartnersさんからのESG投資という2つがトピックとしては大きいと考えていたので、どのストーリーをどのメディアに取り上げていただくかをある程度決めてアプローチしました」

田原「現在では、資金調達+αの情報が必ず求められます。どのメディアでも『プラスで何か情報はありますか』と聞かれることが多いです。単発のニュースをつくるのではなく、点ではなく線で、ストーリーを長期で作っていくイメージで3ヶ月〜半年スパンでPR戦略を考えていくのがいいと思います。

実際に、今回掲載された記事を見ながらメディアごとのストーリーの違いをご紹介します」

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naoi「あるメディアでは、RABOが属する領域のトレンドの中で『調達』がメインストーリーとなる全体像を思い描きました。それによって、業界をリードするイメージ付けに繋がったり、ここから大きい動きが始まるワクワク感を醸成できると考えました。また、猫様を表に出して『猫の会社』というイメージづけができるようなサムネイルをご提供したり、特定の企業一社のみのお名前がフィーチャーされないように調整するなど、細かいところまで想定して動きました。

一方、他のメディアでは、新しい株主であるMPower Partnersさんが主軸となってESG経営をテーマにお話をしていただいています。記者の方との連携によって、メディアごとにフィーチャーいただく内容に差分が生まれました」

取材までの準備


田原「取材までに準備したことを教えてください」

伊集「主に4つあります。1つ目がプレスリリース制作です。資金調達は大きな話題になる可能性が高いので、事前にリリースのドラフト版をメディアにお渡ししました。その後、最終版ができたタイミングでご連絡するという形で継続して連絡が取れるような状態を作りました。

2つ目は、開示できる情報や数字の整理です。特にメディアの方は定量の数値が大事だと思っていらっしゃるので、開示する数字に関しては代表を含め、確認を取りました。開示できる情報とできない情報の見極めができるような情報開示のガイドラインも作成しました。

3つ目は、メディア向けのファクトブックの作成です。営業資料で使用しているものをベースに、気候テックビジネスが注目されている理由や、脱酸素化の背景などを紹介するようなメディア向け資料を作成しました。取材していただく際の説明資料として活躍しているので、作って良かったです。

最後に、システムのイメージカットです。クラウドサービスは使用イメージがつかず、伝わりづらいという点があるため、よく使われるようなキャプチャやロゴのほかに、システムを使用する様子を撮影しました。自然な形でシステムのイメージを訴求でき、メディアさんでも活用していただけたので重宝しました」

naoiドラフトのリリースや開示できる情報の整理、各メディアごとのおおまかなストーリーを用意しておくことですね。例えばRABOは、「所有している猫の行動をデータする」というのを前面に出しているのですが、そのデータ件数が猫の日(2月22日)のリリース時点では37億件だったのが、今回の調達リリース時点で44億と大幅に増えているので、最新版の数字にしておくというのも今回のリリースに向けて行いました。

また、想定質問集のような共有資料を作成したことです。開示できる情報とできない情報の認識を各社で擦り合わせるために作成しました」

田原「ありがとうございます。取材時の注意点やその後のフォローについてはいかがですか」

伊集ドラフトのリリースやファクトブックの準備をしておくこと、メディアの特性を把握しておくことが大事だと思います。編集側の視点で見た時に、企業が出したい情報とメディアが使いたい情報はイコールではないことが多いため、自社が出したい情報をメディア側がどのように変換して掲載するのか、という点を意識しました。また、取材後のフォローで意図しない情報の出方がないように注意しました。

また、取材の持ち時間を聞いておくことです。メディアの方はお忙しいので、最後に質問の時間が取れないことや満足に聞いてもらえないことを避けるためにも、事前に持ち時間を確認しておくことは大事だと思います。オンライン取材時には、聞き逃してしまったり聞き取れなかったりすることもあるので、レコーディングの必要性も確認し、レコーディングしたものをお渡ししていました。

フォローに関しては、取材後や掲載後、掲載までのやりとりでも、その都度お礼を伝えるということを大事にしていました。メディアの方もお忙しいので、迅速に対応することや、進捗が滞っている場合にはフォローの連絡をすることも心がけました」

naoi「最も注意していた点は、今回はステークホルダーが多かったため、ステークホルダー込みのスケジュールにすることや、確認を怠らないようにしていたことです。また、メディアへのアプローチの時点で、今回はどの部分を取り上げていただきたいのかという点を明確にお話しし、記事化されたものをイメージしておくことは注意した点でした。

取材後のフォローは、お礼メールを送ることもそうですが、必要な素材を好きに使っていただけるようにメディアキットを作成しお渡しするなど、メディア対応は優先度高く対応するようにしました」

田原「メディアキットに関して、使用してほしい素材はURLではなくそのまま画像で送るなど、とても細かいことではありますが、そのような細かなコミュニケーションが大切だと思います」

田原「私が考える取材時の注意点です。『いかにサービスを好きになってもらうか、会社を好きになってもらうか』ということがとても重要だと考えます。

スタンスに関しては、1つ目に、『PR目的を明確にする』ということです。目的が採用なのか、事業成長なのか、採用でも職種によって使うワーディングが変わってくるため、PR目的を明確にすることは重要なポイントです。

2つ目が、『取材されることは当たり前ではない』ということです。本当に記者さんはお忙しいですし、何より、世の中には相当な数のスタートアップが存在します。どんなメリットがあるのか、読者にどんな影響があるのかを簡潔にお伝えし、タイミングが合えばお話を聞いてもらえる、という心持ちは重要だと思います。

3つ目に、『事前確認・事後修正は原則できない』ということです。広告記事ではなく、PRの特性を理解する必要があります。広報担当だけでなく、事前に代表の方を含め取材対応者、関係先と認識合わせをしておくべきです。

メディアリレーションに関しては、1つ目に、『説明コストを下げる』という点があります。わかりにくい言葉を使ったり、長々と話したりするのではなく、『どのようなサービスを提供している会社なのか、簡潔に一言で言える企業』であるべきです。

2つ目は、『ビジョンと想いを明確に、丁寧に伝える』という点です。スタートアップと上場会社ではPRに違いがあり、スタートアップのなかでもステージによって少々変わってきますが、ビジョンと想いが武器になるフェーズだと思います。今しか語れない部分も含め、明確かつ丁寧に伝えることは意識したほうがいいと思います。

最後に、『コミュニケーションは最小限に』という点です。掲載日や内容の変更はネガティブな印象を与える可能性もあるため、なるべくそういったコミュニケーションは減らすことが重要だと思います。ドラフトを送る際も、最新版がいつのものなのかわからなくなることや、異なる数字を載せられることを避けるためにも、なるべく1~2回に抑えるなど意識したほうがいいと思います」

プレスリリースの進め方

田原「次に、プレスリリースの進め方について、手順や掲載確認、SNSシェア、問い合わせ対応を含め、お話をおうかがいできればと思います」

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伊集「私たちのタイトルは、通常2行にわたって書くことが多いのですが、今回は、『この業界においてはシリーズBでかなり高い金額で資金調達ができた』という点を純粋に伝えたかったので、シンプルなタイトルにしました。そしてサブタイトルで、何をしたいのかということを書きました。

リリース文の作成は基本的に代表が進めつつ、私が構成・編集をするかたちで作成しました。色々な人が入るほど正解が見えなくなる部分もあると思うので、私たちの場合は代表の西和田と私だけが編集をするのを心がけました。基本的には資金調達をしたという事実と、なぜ資金調達をしたのか、今後の展望について記載しています。

リリースの進捗についてはある程度社内で共有していましたが、最終版の社内への展開はリリース前日に行いました。1時間程度時間を設け、リリース内容の認識の擦り合わせや、質問事項、SNSシェアをどのように進めていくかを共有しました。

SNSのシェアは、メンバーを6ブロックに分け、9時のリリース配信から2時間ごとに区切り、主にTwitterで発信していきました。その理由として、資金調達のリリースは瞬間的に終わってしまいがちですが、それを長く持たせたかったことと、社内のメンバーを巻き込んでお祭り騒ぎにしたかったという点があります。共通のハッシュタグを事前に用意しておき、社員がFacebookやTwitterで投稿、それをお互いにリツイートし合うことなどで盛り上がりを作っていきました。また、4月13日に掲載を依頼していたメディアもあったので、弊社のアカウントで『〇〇に掲載されました!』というようにどんどん投稿していきました。

リリース当日の掲載確認は、代表と私、人事採用担当の3名で終日対応しました。主に私が掲載確認をし、社内連携とSNS投稿を採用担当と分業して、即時対応ができるような仕組みを整えました。資金調達をすると問い合わせの数が増えますが、前週と比べて約150%問い合わせの数が増えました。また、採用の応募数も、前月対比で2倍以上に急増しました。それらの問い合わせは、あえて普段とオペレーションを変えずに、メディア担当と採用担当と営業担当がそれぞれ対応し、問い合わせいただいた方に滞りなく対応することができたと思います」

naoi「RABOのタグラインとして、『すべては、猫様のために』というのがあるので、資金調達リリースに限らず、これを毎回意識してリリースを書いています。会社の規模が大きくなっても、必ず『猫様を大事にしていくぞ』というのが一面で分かるように、今回も額縁に佇むようにブリ丸CCO(猫)を一番中心に配置し、その周りに猫のイラストを配置する画像を使用したリリースにしました。

イラストも「首輪をしている猫様もしていない猫様も、みんな幸せにするぞ!」という思いを込めたデザイニャー渾身のイラストです。

今回のリリースは、叩きを田原さんに書いていただき、基本的には私と代表で進めました。今回良かった点は、前日に3人で読み合わせをしたことです。私が読み上げて、2人が文字を目で追っていくという読み合わせだったのですが、今まで関係各所で何度も確認を行ってきたのにもかかわらず、誤字や脱字などのミスが見つかりました。

リリース当日は私がメインでTwitterをチェックし、記事の掲載後に社内と社外にシェアしました。社長が猫様への熱い想いをnoteで公開しているので、そのnoteも拡散し、『猫様のために』という想いを伝えていくようにしました。問い合わせ対応は通常と変わらず、PRに関するものはPRに集約して対応しました」

田原「私もこの読み合わせに参加したのですが、細かな間違いがたくさん見つかり驚きました。プレスリリースはずっとストックされていくもので記者の方も、業界の方も、クライアントの方も多くの方がご覧になるものです。配信前は皆さんも丁寧な確認を心がけましょう!」

toC/toBにおけるPR方法の違い

田原「最後に、toCサービスとtoBサービスでPRにおいて、なにか異なる点はありますか」

伊集「大きくは異なる点はないと思いますが、toBサービスを扱う場合は特に、数字やファクトを持つ必要があります。toCサービスではエンドユーザーに『想い』などの定性面を訴求することでPRの目的が伝わり、共感されることもありますが、toBサービスでは明確な数値や事例など、定性/定量の両方を伝えられる情報を持っておくのが非常に大事だと思いました。数字やファクトがないと、取材されても掲載されない可能性もあります。

資金調達に興味を持つのは、VC、投資家、スタートアップ系メディアがほとんどだと思いますが、リーチを広げるには、私たちでいうと環境系・サステナブル系のコアメディアや、資金調達とプラスαの新規情報など、異なる切り口で訴求していくことが大事だと思いました」

naoi「同じく、大きな違いはないと思います。Catlogは猫様のためのデバイスを取り扱っているので、プロダクトや会社に関する発信とともに、必ず猫様に対する想いの発信は弊社としても重視しています。最近では、機能追加やウクライナの動物への寄付のお知らせを掲載しましたが、きちんとRABOの想いを発信していくこと、猫様ファーストのストーリー性であることを重視しています。今回は資金調達に合わせてキャンペーンを実施したので、お客様向けには、『キャンペーンを行います!なぜかというと資金調達をしまして…』というお知らせを出しました。toCサービスの場合、プレスリリースの発信・メディア掲載だけではお客様には伝わりにくいため、お客様にもこのような形で会社に興味をもっていただく流れにできたのはよかったと思いました」

このあと行われた懇親会でも、会社の垣根を越えてお悩み相談など意見交換が活発に行われました。今後も、PRのノウハウや課題を共有できるような勉強会/座談会を開催予定です!事業会社同士でノウハウ共有が活発になることで、各社が採用や顧客獲得につながるPRを推進し、会社の成長をPRが支える仕組みを構築できればいいと考えています。次回のイベントレポートもお楽しみに!