VTuberは海外でも通用する。世界中で愛されるブランドをつくり、日本を前進させる/カバー代表取締役 谷郷氏 × STRIVE 堤

投資先by STRIVE

VTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバー株式会社が2023年3月27日に東証グロースへ上場しました。今回はシリーズAから支援を行ってきたSTRIVE 代表パートナーの堤が、カバー 代表取締役社長CEOの谷郷 元昭氏と上場までの道のりを振り返って対談しました。

当時の投資委員会での反応は「みんな、ポカーン」

堤︰STRIVEが最初に投資させていただいたのは2018年6月のシリーズAでしたから、5年前になりますね。オフィスも拡大し、感慨深いものがあります。

谷郷さん(以下、谷郷)︰懐かしいですね。投資していただいてからしばらくは苦労する時期が続いたのを思い出します。

堤︰どの会社も最初は苦労するものです。しかしカバーは半年ほどで成長フェーズに入れたのが良かったと思います。

谷郷︰アイドル要素を強くした見せ方が受け入れられて、2019年夏には月商5000万円を超えました。ただ、今でこそ「VTuber」は多くの人に知られる存在になりましたが、ファイナンスでは全然相手にされなくて苦労しました。

堤︰KPIが伸びていたのでファイナンスには苦労しないだろうと思っていたら、どのVCからも良い反応がもらえなくて僕も焦りました。最終的に7億円調達できましたが、「なんでこんな優良な会社に投資しないんだろう!?」と思っていました。

谷郷︰投資家の見方が変わったのは最近のことですから、当時はこの領域の成長性について半信半疑だったのだと思います。その中で堤さんに初期から入っていただけたのはありがたかったです。

堤︰谷郷さんは大学のサークルが一緒だったので昔から知っていますが、卒業後はイベントで会って「久しぶりー」と話をするくらいでした。アイデアの原型を見たのは2017年のIVSローンチパッドの時でしたね。

谷郷︰2017年9月に「ときのそら」がデビューしたんですが、その時のクオリティーはまだまだという状態で、12月のIVSで実演したデモが予想以上にウケて2位になったのには驚きました。

堤︰谷郷さんとCTOの福田さんが登壇されて、めちゃくちゃシュールだったのを今でも鮮明に覚えています(笑)。構想自体は少し前から聞いていましたが、実際に見てすごく刺さって、「投資しよう」と決めました。

谷郷︰社内ではどんな反応だったんですか?

堤︰オブザーバーも含めた投資委員会でみんな、ポカーンという反応でした(笑)。でも僕らはやっぱりSecond Life世代で、バーチャルワールドみたいなものに対する強い憧れと「いつか来る」という確信みたいな世界観を持っていて「その過程として、VTuberは避けて通れない」と強く思ったんです。投資の最終決裁を行う投資委員会でも最終的に「堤がそんなに面白いって言うんだったらいいんじゃないか」となりました。

ただ、僕はVTuberそのものに投資したつもりはなくて、フォロワーも含めてこれからどんどん広がるであろう「バーチャルな世界」に投資しました。好きなんです、バーチャルリアリティーというものが。

谷郷︰堤さんって一般的な投資家とは違う投資スタイルを持っていると思っていて、勝手に「コスパ重視投資」と呼んでいます(笑)。コスパ重視投資とは何かと言うと、みんなが「これ」と言うものじゃないものに投資されるところがあるのかなと思っています。

堤︰それは僕にとって最大の褒め言葉ですね。起業家もそうだと思うんですが、みんなが良いと言うものを追いかけても別にワクワクしないじゃないですか。当時「VTuber四天王」と呼ばれていたトップVTuberたちがいて、そらちゃんは5番目くらいだった。投資委員会でも「なんで四天王じゃなくて5番目なんだ!?」みたいな話が出ていました(笑)。

日本を前進させる仕事がしたい

堤︰谷郷さんは起業からイグジットまで経験されてますが、どんな経緯でカバーを創業されたんですか?

谷郷︰前の会社を売却した後、なかなか良いプランが出てこなくて「自分が本当にやりたい事って何なんだろう?」と悩んでいました。そんな時に思い出したのが新卒時代に担当していた携帯公式サイトの運営です。コンテンツビジネスであれば経験値もあって他の人よりスキルが高いという自信はあったのですが、既にある市場に新規で入るのは難しい。「コンテンツビジネスは新しい産業が出来上がるタイミングにしかチャンスはない」と考えて目をつけたのが「VR/AR」でした。

実はその時点ではまだ会社を作っていなくて、前の会社からの知り合いだった福田(現CTO)に僕が直接お金を払って開発してもらう形でスタートしました。そこで最初に作り始めたのがVRゲームです。

ただ、ゲームを作るだけではビジネスとして厳しいので、ネットワーク効果があるようなサービスにしようとVR版モバゲーみたいなものを考えていました。問題は宣伝をどうするかで、3DCGのキャラクターでVRゲーム実況ができるようなシステムを作って宣伝することにしたんです。それが現在のサービスの原型になりました。

堤︰谷郷さんは発想がコンテンツありきではないところが良いですね。常にテックをベースにビジネスを考えている。経営の経験もあって、酸いも甘いも知っているし、CTOの福田さんがいて技術もしっかりされている。実はカバーへの投資を決める前に似たような事業をしている会社さんに一通り会っているんですが、この領域に投資するならカバーしかないと思って決めました。

谷郷︰確かに若いクリエイターが経営もされているような会社と違って、私はクリエイターではないですし、チャレンジしたい領域は「インターネットビジネス」です。インターネットとの掛け算でやるビジネスが何かを考えて、行き着いたのがコンテンツビジネスでした。

堤︰海外展開は当初から考えていたんですか?

谷郷︰そうですね。SaaSは海外のほうが進んでいますが、コンテンツビジネスなら日本のほうが進んでいる。だからコンテンツをやると決めた瞬間から海外のことも考えていました。個人的には「人類全体にインパクトを与え、人類を前進させるような仕事をする」というのを目標にしていまして、まずはカバーで日本を前進させる仕事をしたいですね。

堤︰そういった考えは昔から持たれていたんですか?

谷郷︰私はノーベル賞の授賞式と同じ12月10日生まれなんですが、べたに「発明家になって将来ノーベル賞を取りたい」と思っていました。大学も理系に進んだのですが、社会の仕組みはいまいち分かってなかったんですよね。社会人になってからようやく、エジソンは起業家だったということに気付きました。

新卒で入った会社がベンチャーだったのもよくて、先輩が起業して上場したりしているのを見て、自分がやりたいことを実現するためには起業家にならなければいけないということが理解できたと思います。昔から発明家たちの人生に憧れていて、いつも「社会にインパクトを与える仕事がしたい」と考えています。

日本発で世界中に愛されるブランドをつくる

堤︰事業が伸びてから上場に向けての準備はかなり大変だったと思います。

谷郷︰そうですね。ユーザーが増えて業界プレゼンスが爆上がりしても、お金は目減りして人材も潤沢なわけじゃないという状態でしたから、そのギャップが大変でした。ライブ配信という性質上守りの手を確保するのに、かなり苦労しましたね……。

堤︰僕が記憶しているだけでも大きな山場が2、3回。それを上場前に乗り越えてきたというのはスタートアップでは珍しいと思います。

谷郷︰良くも悪くもこれまでの経験で襟が正されて、早い段階で社会にフィットできる状態になったのは良かったと思います。守りの手を厚くするために、現在は社内に弁護士資格を持つ人が2人常駐していて、法務や知財系のチェック体制は手厚いです。配信の監視も30人くらいで24時間やっています。お陰で上場に向けての準備はスムーズに進みました。

堤︰組織面ではどうですか?

谷郷︰社員数は400人ほどに増えましたが、拡大する組織に個々のマネジメント能力が追いつかない問題が出てしまいました。ただ、そこは適材適所をしていくしかないと思っています。

カバーの採用はファン中心なのですが、経営層が腰掛けではないというところは恵まれていると思います。一方で「良い人」がいても、それが「スキルが高い人」とか「伸ばしたい事業に必要な人」とは限らない。しかも普通のスタートアップと違ってYouTubeの配信事業からマーチャンダイジング、ライブイベント、音楽制作まで必要なプロフェッショナルがそれぞれ違うので、やはり適材適所という点では苦労しました。

堤︰確かに、カバーには「いかにもスタートアップ」という感じの人はほとんどいないと思います。僕も面接に参加して思ったのは、皆さん本当にホロライブが好きなんですよね。そこがすごく強いなと思いましたし、要所要所でスキルのある人たちを採用できたことが成長をドライブさせていく上で原動力になったんじゃないかなと思います。

谷郷︰そうですね。今回上場はしましたけど、この会社でやりたい「日本を元気にする」というチャレンジはここからがスタートだと思っています。日本の人口が減っていく中で、 今までみたいに日本だけでビジネスが成り立つというのは難しくなっていきます。我々は海外でも通用するVTuberというカルチャーを日本発で生み出せたので、世界でもしっかりブランドを築けるような会社にしていきたいです。

堤︰僕も投資家として、日本にとどまるのではなく本当にグローバルに目指せる会社を作りたい、そういった会社を支援したいと常々思っています。ここまで世界が見えているカバーには、世界中に愛されるブランドをつくってほしいなと思います。

谷郷︰これから上場を機に、いろんな会社さんとお付き合いできるようになっていくと思います。エンタメ業界の方々と協力しながら、日本の素晴らしいコンテンツを世界に展開していける会社を目指していきます。

堤︰応援してます。ぜひ頑張ってください。