新たな音声エンターテイメントプラットフォームを構築するRadiotalkが目指す未来とは Radiotalk 井上佳央里氏 × STRIVE 根岸

投資先by STRIVE

2020年10月に約3億円の資金調達を実施した、音声配信プラットフォームを運営するRadiotalk株式会社。音声コンテンツが注目を集める今、「Radiotalk」立ち上げの背景やサービスの特徴、今後の音声メディアの成長について、Radiotalk 代表取締役 井上佳央里氏とSTRIVE パートナー 根岸にうかがいました。

配信者とリスナーが熱量高くコミュニケーションをとれる場所。多種多様な音声コンテンツが集まる「Radiotalk」

根岸:「Radiotalk」は、どのようなきっかけで立ち上げられたのでしょうか?

井上さん(以下、井上):学生時代の「聞く体験」が原体験としてあります。ラジオを聞きながら片づけたり作業したりする体験におもしろさを感じていたんです。 大学では放送学科に所属し、ラジオ制作に携わっていました。ラジオ局が提供するラジオコンテンツは種類が少なく、内容がシニアに偏りがちだと感じていたため、若い世代を対象にしたものを作れないかなと思っていました。

根岸:そうですね。テレビの場合、Netflixが提供しているプロコンテンツや、YouTubeで配信されている短尺コンテンツなど、多くの選択肢があります。音声コンテンツに関しても、これから本格的に拡大期を迎えるのではないかと思っています。 

井上:デバイス等の環境の変化にも影響を受けています。「Radiotalk」を構想していた時期は、スマートスピーカーやAirpodsが登場しはじめた時期で、今後はもっと自然に聞けるデバイスが登場するのではないかという考えがありました。

また、スマートフォンでの自己表現の方法にも着目していました。2015年はInstagramやTikTokが盛り上がっていたタイミングでしたが、ここでユーザーがリアクションするコンテンツは、「かわいい」「おいしそう」と本能や直感に訴えるようなものが多いです。一方、発見や気づき、思想、フィロソフィー等も発信する必要があると感じていました。当時、私はブログサービスのプロデュースをしていた経験から、フィロソフィーは言語化されるものであり、スマートフォンを使って言語化する方法は話すことが適しているのではないかと思ったんです。さらに、スマートフォンで検索する際、従来の入力検索よりも音声検索のほうが速くて楽だというトレンドがあったのも、「話す」に着目した理由のひとつです。

根岸:動画領域においてはスマートフォンベースのプラットフォームが拡大しています。音声領域に関しては、中国やアメリカが先行している印象ですが、海外の音声配信市場をどのように捉えられていますか? 

井上:アメリカでは、YouTuberの音声版と言える「ポッドキャスター」と呼ばれるPodcastの有名人がいたり、プロダクションが生まれたりします。先にPodcastで音声コンテンツを制作し、ヒットしたらNetflixで動画化するなんて事例もあるんです。月1回は音声コンテンツに触れる人が7割を超えるなど、習慣化されている印象があります。また、今年、中国最大の音声プラットフォームアプリの1つであるLizhiは、米国で「LIZI」としてナスダックに上場したという事例もあります。 

根岸:音声コンテンツは、日本でもひとつのトレンドとして盛り上がってきていると感じています。ただ、音声コンテンツといっても、ライブ配信やプロコンテンツ、UGC(ユーザー生成コンテンツ)といくつかの種類に分けられますよね。「Radiotalk」の現状をお聞かせいただけますか?

井上:「Radiotalk」は動画で例えるとTikTokのイメージが近いです。プロコンテンツもUGCもあり、コンテンツの尺もさまざまで、更新頻度も配信者次第と、バラエティ豊かなエンタメサービスです。ライブ配信、スコア、ギフト等の新機能を拡充することで、「Radiotalker(配信者)」とリスナーが熱量高くコミュニケーションをとれる場として、多くのコミュニティが生まれています。 

テキスト以上に「人」を伝えることができる――音声だからこその魅力

根岸:より多くのコンテンツが生まれる状態を作るために工夫されていることはありますか?

井上:1タップで誰でもすぐに始められるようなUIUXを設計しています。マイクボタンを押すだけで収録を開始でき、編集スキルがなくても簡単に速度や声の高さをカスタマイズすることができます。話す内容に困った人向けにはお題を提供するなどさまざまな機能をご用意しています。手軽に参加できるという点はUGCにおいて重要なポイントではないでしょうか。

根岸:さまざまな機能がある「Radiotalk」ですが、配信者とリスナーが熱量高くコミュニケーションをとることができる仕組みづくりについて教えてください。

井上:2020年9月に、ライブ配信やギフト機能をリリースしました。リアルタイムで相互にコミュニケーションをとることができるライブ配信では、リスナーが配信者にギフトを贈ることで感動や応援の気持ちをよりダイレクトに表現することができます。

根岸:ライブ配信では、リスナーにとってはリアルタイムで抱いた感情をギフトで表現できる楽しみがありますよね。配信者にとってもリスナーから反応がもらえる嬉しさがありますし。好きなアーティストの楽曲を音楽配信サービスで聴くのが収録コンテンツで、実際にライブに行ってグッズを買うのがライブ配信コンテンツ、のような感覚があります。

井上:音声コンテンツの特徴として、「ながら聞き」ができる点が挙げられます。聞きっぱなしにできるからこそ、一緒に過ごしている感覚になり、リスナーと配信者の間に絆のようなものが強固にできあがるんです。「Radiotalk」には、配信者とリスナーの熱量を可視化できるスコアという概念があります。「今日で何万スコアを達成したらグッズを作って還元します!」みたいな企画をされている配信者もいるんです。

根岸:このようにファンコミュニティが形成されていくんですね。他サービスと比べると、「Radiotalk」はコミュニティの濃さが強みだと感じています。

井上:まさに、私たちが目指しているのは、熱量の高いコンテンツが増えていく世界です。音声だからこそできることでもあると感じています。たとえば、画像・動画コンテンツの場合、一瞬で自分ごと化できるかどうか判別しやすいですよね。一方、音声コンテンツは聞いてみないと良し悪しがわかりませんが、言い換えると、本当にそのコンテンツに興味がある人が集まっています。結果的に、「Radiotalk」に寄せられているテキストコメントには、誹謗中傷がほぼないんです。

根岸:好きな人が残るから熱量も上がるわけですね。

井上:リスナーがフィルタリングされる点は、配信者がコンテンツを発信するハードルの引き下げにも繋がると思います。自分の好きなことや想いをメジャー、マイナー関係なく話すだけでコンテンツとして成り立つんですよ。

人気コンテンツには、何らかのマイノリティに属する方による配信や、正論でばっさり回答するタイプの恋愛相談など、配信者の考えが伝わるものが多いです。熱狂的に求めてくれるリスナーがいて、反対に心ない誹謗中傷が寄せられづらい。そうした特徴があるので、「Radiotalk」はリスナーが際限なくいいねやギフトを送れる仕組みを採用しています。

STRIVEを選んだきっかけ――成長を支援し事業共創するチーム

根岸:「Radiotalk」は大きくスケールし始めた時期だと思います。追加調達する際、数あるVCの中でSTRIVEを選んでいただいたきっかけは何だったのでしょうか?

井上:環境が変化したり他社事例を見たりしているうちに、「プロダクト開発にかかる資金は外部調達という手段もあるのか」と考え始めました。根岸さんを知ったきっかけは、社内ベンチャー制度でRadiotalkを立ち上げた直後の2018年です。根岸さんが投資先のラブグラフへの出向を終えられた頃だったのですが、ラブグラフの経営陣の情報発信を見て、「助言」ではなく「共創」するようなベンチャーキャピタリストがいらっしゃるんだなと衝撃を受けたことを覚えています。

根岸:ありがとうございます(笑)

井上:また、STRIVEのハンズオン支援の体制にも魅力を感じました。Radiotalkのメンバーには、元々Podcastの配信者やリスナーだった人、言語化や話すことが好きで習慣化している人など、若手のメンバーが多いです。「Radiotalk」で実現する未来に対して熱く語り合える関係で、思いが強いチームです。一方で、事業成長のためには、よりビジネスセンスが高くロジカルに議論できるメンバーを経営陣に迎え入れたいという思いもありました。採用領域を強化していくことを考えると、採用のプロであるタレントパートナーがいるSTRIVEの体制は魅力的だったんです。

こうして追加調達を進める中で、2年越しに根岸さんに直接相談させていただき、今回の資金調達に至りました。

根岸:すでに採用支援も一緒に取り組ませていただいていますが、さらに強化していきたいですね。今後もともに事業成長を加速できるよう支援させていただきます。

ファンの熱量の高さが生み出す「個の熱狂経済圏」

根岸:すでにいくつも熱量の高いコンテンツが生まれていますが、コンテンツに集う人たちの熱量が高まっていくことで起こる変化について、どうイメージされていますか?

井上:「Radiotalk」で大事にしている”誰でも簡単に配信できる”という点にも見られるように、デジタルの普及によって個人が自由に情報発信できるようになりました。熱量の高いファンがつくことで、「Radiotalk」の配信だけで生活が成り立つ配信者も登場し、「個の熱狂経済圏」が生まれています。これは、熱量の高さがものを言う音声コンテンツならではの良さだと思います。

根岸:「私しか思っていないことかもしれないけど」といったマス狙いではない内容が、かえって熱量の高いファンを獲得する。これが「Radiotalk」なのかなと感じました。放送枠が決まっているわけではないので多種多様なコンテンツが生み出されるし、オールジャンルOKな雰囲気を作れているのかなと。資金調達を終えた今、これから強化していきたい点は何でしょうか。

井上:「ここでなら何でも話していいんだ」と配信者が思える安心感を醸成して、リスナーもが「私も話してみようかな」と思えるようなサービスづくりを目指したいです。そのためには、応援のしがいがある機能や、熱狂すればするほど楽しくなる機能の構築など、熱狂度に重きを置いたサービス開発を進めていきたいです

今後は、企画も開発も強化していく必要があるので、プロダクトマネージャー、エンジニア等、全方位で仲間を増やして事業推進していきたいと思います。そして、ゆくゆくは道行く人たちが「Radiotalk」を聞いている世界を実現したいです。