登る山を見極め、愚直に挑戦し続けた10年の末の上場 Retty 武田和也氏×STRIVE 堤
2020年10月30日に東証マザーズへの上場を果たしたRetty株式会社は、今年で創業から10年を迎えます。創業経緯から現在までの道のり、STRIVEとのタッグの組み方や今後について、Retty 代表取締役 武田氏と、8年間Rettyの支援に携わってきたSTRIVE 代表パートナーの堤に語ってもらいました。
スマホ×ソーシャルのパラダイムシフトへの確信からうまれたRetty
堤:東証マザーズ上場、おめでとうございます!創業から10年で、僕が支援に携わらせていただいている期間が8年になりますね。まずは創業に至った経緯についてお聞かせいただけますか?
武田さん(以下、武田):前職を退職したあと、約1年間サンフランシスコに滞在し、どの事業領域で起業するかを検討しました。2010年頃は、アメリカをはじめ全世界でスマートフォンが一斉に広まっていった時期で、あらゆる業界で新しい市場が生まれるはずだと確信めいた思いを抱くようになりました。
堤:iPhone4が登場した頃でしたね。
武田:そうですね。また、アメリカではFacebook等のSNSも普及していました。ソーシャルがこんなに世の中のコミュニケーションを変えるんだと強烈な印象を受けました。ソーシャルとスマホ、この2軸で事業を立ち上げようと考えました。
堤:「食」の領域に行き着いたのはなぜだったのでしょうか?
武田:数ある領域の中で、日本が世界に誇れる領域のひとつが「食」であり、結果的に世界にも展開していけるのではないかと仮説を立てるようになりました。また、僕は、サービスが目指すべき姿はユーザーの課題解決だと考えています。「食」は生活に深く関わるものであり、サービスを通して多くの人をハッピーにするイメージができたのも理由です。すぐに事業を立ち上げようと決意して帰国しました。
堤:事業立ち上げ後、MAUが爆発的に増えるまで苦労する期間がありましたね。
武田:サービスの構造上、まず口コミを投稿してくれるユーザーを集めるべきだと考えました。ただ、投稿してくれるユーザーは閲覧するユーザーに比べて規模が小さいため、サービス全体のユーザー数は伸び悩みました。2011年6月にリリースして約2年間は、本当に苦労しました。だから、シリーズAの資金調達は本当に大変で、シリーズAの資金調達直前は、会社口座のキャッシュが10万円まで減っていたほどです(笑)。
堤:その後もユーザー数が増えるまでには時間がかかりましたよね。投資時が10万人で、その後も本当にわずかしか増えない。ただ、その後コンテンツが増え、SEO施策も始めたことで、変化が出てきましたね。
武田:2013年頃から徐々にユーザー数が拡大し、コンテンツを閲覧するユーザー側に対する機能をさらに強化し始めました。コンテンツ数も70~80万ほど蓄積され、ようやくRettyを見に来る人が増える構図になりました。
STRIVEとタッグを組んだ8年
堤:武田さんとの初対面はB Dash Campの1回目でしたね。その後、ランチをご一緒したのが投資検討のきっかけでした。
武田:その場で「ファイナンスを考えている」とお話させていただきました。印象はいかがでしたか?
堤:当時、僕もスマホ×ソーシャルのトレンドには注目しており、バーティカルでさまざまなサービスが立ち上がるだろうと考えていました。最初は半信半疑でした。一方で、前職(リクルート)時代に、ホットペッパーが後発の食べログにユーザ数で抜かれていくのを見ていて、ソーシャル☓スマホのパラダイムシフトのタイミングにおいては、食の領域でも新興サービスが既存サービスを超えるのではないかと思いました。
武田:当時、Retty以外にもさまざまなグルメサービスが立ち上げられていました。堤さんもいくつか投資の検討をされていたと思いますが、そのなかでRettyに対してどう思ってくださっていたのか、投資先として選んでくださった理由をお聞きしたいです。
堤:徹底した投稿者ファーストの事業展開と経営者の武田さんが決め手でした。プラットフォームビジネスで多く見られる傾向は、閲覧するユーザーのために施策を考えてしまうケースです。ただ、僕は、コンテンツの提供側を意識した運営を行わなければプラットフォームにはならないと確信しています。Rettyは、当初から口コミを投稿するユーザーに振り切って機能強化をしていました。
また、武田さんの粘り強さにも惹かれました。僕がすでにRettyのビジネスに食いついていた前提もあったと思いますが、本当に粘り強くて(笑)。メディアビジネスは立ち上がるまでに本当に時間がかかります。経営者としての武田さんの根気強くやり続けられる姿勢は、素晴らしいなと思いました。
武田:愚直にいろいろなことを積み上げていくしかないんですよね。メディアビジネスは、なかなか短期的に勢いよく伸びるものではありませんが、一方できちんと積み上げていけば、増えた数が簡単に減ることはないとも思っています。
堤:シリーズBの資金調達のタイミングではユーザー数が70万人を超え、「愚直にやっていればユーザーが増え続ける」と確信が持てるようになりました。次に議論したのがマネタイズについてです。僕はマネタイズは極力後ろ倒しすべきだという考えですが、早くマネタイズしたほうがいいと考える投資家もいます。結局、RettyはシリーズCの資金調達を終えるまでマネタイズを強化しませんでしたよね。正直なところ、ここまでマネタイズをしなかったことについて、武田さんはどう感じていましたか?
武田:シリーズCの資金調達の段階でユーザー数は700万人で、10億円を調達しました。キャッシュが減り続けるのは精神的に健全ではないですし、苦労はありました。ただ、僕は堤さんに言われた「1軒のうまいラーメン屋を目指すよりも、世界中の人が食べているカップヌードルを生み出せ」という言葉が非常に印象に残っているんです。この言葉で方向性の認識合わせができたなと思っています。
この観点と時間軸が合うか合わないかは、起業家と投資家との関係性において非常に重要です。STRIVEさんは、大きなものを作り上げたいと思っている起業家に合うのではないでしょうか。
堤:ありがとうございます。
武田:STRIVEさんには、Rettyの事業成長を加速させるために多くの支援をしていただいています。事業計画のアドバイス、投資家向けの資料づくり、調達先の紹介など、本当にさまざまな面でコミットしていただいています。表面的には見えない部分ですが、堤さんの素晴らしいところは次の目標に向かって手を動かしながら何でもやってくれるところだと思います。一緒に働いた起業家はみんな同じように言うのではないでしょうか。愚直にRettyに投稿し続けてくれる投資家は、堤さんくらいしかいないと思います(笑)。
堤:会食で利用したお店はすべて投稿していますからね(笑)。
武田:先ほど出たマネタイズに関して、今改めて考えてみると、もっと後ろ倒しにしても良かったかもしれないと思います。キャッシュが減っていく苦労を耐えてマネタイズを後ろ倒しにしたからこそ、マネタイズできるメディアの余力を作れました。その結果、メディアの成長とマネタイズの成長を同時並行できる規模を実現できたと考えています。
堤:シリーズDで初めてマネタイズして、ようやく売上が伸びていることを投資家に示せるようになりましたよね。それまでは、キャッシュフローのグラフが資金調達を実施するたびに跳ね上がり、その後きれいに右肩下がりになっていました。キャッシュアウトするタイミングで、次のファイナンスをしての繰り返しでしたね。
武田:毎回きれいにキャッシュを使い切っていましたからね(笑)。今になって思うのは、飲食メディアは意外と競合が参入しづらいんだなということです。飲食メディアは数多く存在しますが、マネタイズするには2,000万UU以上の規模が必要だと気付きました。日本には70万店舗以上の飲食店がありますが、飲食メディアからひとり来店するというレベルでは規模が合いませんからね。そして、その規模を超えるメディアとなると、競合メディアが一気に減ります。実はかなり参入しやすい領域だったのだと後になってわかりました。
堤:そういえば、これまであまり競合を意識した話はでませんでしたね。圧倒的な競合に対して、武田さんはどのように感じられますか?
武田:僕はスマホ×ソーシャルのパラダイムシフトが起きるという確信がベースにあったので、新たに絶対的なマーケットが開かれるチャンスがあると考えていました。そうした確信がないなかで大手競合と類似した事業に参入するとなると、相当大変ではないかと思います。
堤:イノベーションジレンマもありますよね。食べログが伸びているからといってホットペッパーが口コミ機能を後付けするかといえば、おそらく違う。それと同じことが、Rettyにも当てはまるのではないでしょうか。過去の圧倒的成功があると、どうしても起こることですね。
事業拡大と共に組織も拡大されていきましたが、印象に残っている出来事はありますか?
武田:「全員で採用」を掲げていた時期があるくらい、採用を重要視していました。対外的な発信も積極的に行っていたのがうまくリンクして、採用実績を積み上げられる組織になっていったのではないかと思います。
堤:Rettyは、小規模な組織の頃からかなり採用に力を入れていますよね。エージェントが持っているデータベースだけではなく、独自のデータベースを作っていたのが強みだと思いました。コア人材には定期的に声を掛けるなどの採用活動から入社した方も多いですし、いい採用がいい組織を作る好例だと思います。キーマンとなる人が加わって、事業成長スピードが急激に上がる。これがスタートアップの組織作りの醍醐味だなと思います。
IPOを経たRettyのこれから
堤:創業から10年経ちIPOを迎えた今の心境はいかがですか?
武田:この10年間は、いつの間にか10年経ったなという感覚です。今後は、ユーザーや社員、投資家のみなさん等、より多くの人を巻き込んで事業成長していく必要があり、責任も感じています。
堤:この8年間で、後半になるほど大きな意思決定が増えていったと感じています。大手企業との業務提携や営業スタイルの方向転換、そしてIPO。その中で、厳しい意思決定を繰り返すことで経営の質が変わり、武田さんが次第に起業家から経営者になっていかれたなと間近で見ていて感じています。今後についてはどのように考えていらっしゃいますか?
武田:中長期的にはデータを活用しながら個々人が最適なお店を探せる体験を磨いていきたいと考えています。たとえば麻布十番に行って12時にRettyを開くと、過去に行ったお店や行きたいと思っていたお店の情報、店舗の空席状況などを踏まえて「このお店はどうですか?」と自分に合ったお店が提案されるような世界観を実現できれば、検索自体も不要にできるはず。そのような体験を通じて、飲食店とユーザーを繋いでいくような存在を目指していきます。