「本人確認」の基盤をつくるパイオニア TRUSTDOCKが見据える、デジタル社会のインフラとなる未来 TRUSTDOCK 千葉氏 × STRIVE 四方・髙田

投資先by STRIVE

日本で唯一のeKYC対応のデジタル身分証アプリ「TRUSTDOCK」と本人確認API基盤を提供する株式会社TRUSTDOCK。さまざまな法律に対応しながら事業推進を行う難しさや目指すビジョンについて、代表取締役の千葉孝浩氏にSTRIVE インベストメントマネージャーの四方、髙田がお話をうかがいました。

日本で唯一のe-KYC/本人確認APIサービスがうまれたきっかけ

千葉さん(以下、千葉):当社はKYC(Know Your Customer)の専門機関です。KYCとは、銀行口座や仮想通貨口座を開設するときなどに必要となる“本人確認手続き”の総称のことで、これらをオンラインで行う仕組みのことをeKYCと呼びます。このKYCおよびeKYCは、現代においては金融サービスに限らず、あらゆる業界に必要なものとなっています。実際に、TRUSTDOCKが提供するサービスは、金融から人材、不動産、マッチングプレイス、公営賭博、さらにMVNO等のケータイキャリアやインターネットプロバイダーなど、さまざまな業界で活用いただいています。

髙田:ガイアックスからカーブアウトした当時のお話をお聞かせください。

千葉:元々は、ガイアックスの事業部ですらなかったんです。ガイアックスでは、スペースマーケットさんやクラウドワークスさん達と共に、シェアリングエコノミー協会も設立して、シェアリング・エコノミーやギグ・エコノミー業界全体を盛り上げようとしていました。その中での最初の課題は、シェアリングエコノミー業界での初回の利用率を上げること、取引における「0→1(ゼロイチ)問題」、それを解消するのが目的でした。例えば、CtoCのプラットフォームでは、一般の生活者同士の取引なので、皆さん、素性が分からない人とやりとりするのが不安でした。最初が一番、勇気がいる。業界発展のためにそこを支援したい。

そのため、2016年頃に、開発部のR&Dチームが、ブロックチェーンを用いてデジタルIDのプラットフォームに取り組もうとしていました。まだイーサリアムが出始めの頃で仮想通貨バブル前です。「デジタルIDが整備されていれば、個社ごとに身元確認しなくてもいい世界がくるのではないか。」という発想から研究開発を進めて、その後、リーン手法で、ユーザーインタビューを続ける中、デジタルIDとKYC/CDDの差異と本質、技術としてのブロックチェーンのメリデメが見えてきました。それと同時に、国内外の外部環境の変化と潮流を読む中で、シェアリングサービスに限定せず、あらゆる業界業種に貢献できる、本人確認ソリューションが必要ではないかと考えるようになりました。そして、2017年7月に事業部化、同年11月に独立するための法人を用意しその後、2018年4月に、ガイアックスからカーブアウトしました。

四方:ユーザーインタビューではどのような課題が見えてきたのでしょうか。

千葉:たとえばCtoCのマッチングプラットフォームで家事代行をする場合、取引の安心・安全を少しでもカバーするため、請け負う側も依頼する側も身分証を提示する場合があります。ただ、依頼者は個人情報の塊である身分証を、安易に様々な事業者にばら撒きたいわけではありませんし、請け負う側の個人も同様です。プラットフォーム事業者側も身分証画像が欲しいわけではありません。ただ、取引成立のCVR向上や、トラブルを抑制したいだけです。つまり、三者ともリアルな身分証画像をやりとりしたいわけではないのです。しかし、他に身元確認の手段がないため、やりたくないのに身分証をアップロードせざるを得ない、というのが現状です。今はまだ道半ばですが、この課題を解決したいです。

髙田:課題解決に向けてどのように事業推進されたのでしょうか。

千葉:テック業界にいる私達は、当初はブロックチェーンやAI等の先端技術を使えば、デジタルIDの基盤を作れるんじゃないかと安易に考えていました。ですが、ユーザーインタビューを通して、特に金融業界では、KYC/CDDなどの本人確認プロセスが複雑であることが分かりました。それと同時に、この問題は、先行指標がFinTechであるだけで、業界業種問わず同じ構造の課題を抱えているはずだと考え、川上から川下まで対応できるサービスを作ろうと思ったんです。業界業種ごとに何がPainfulな課題なのか、全ての現場に私自ら出席して、足で稼ぎながら、観察し続けました。

そしてどこにも、「銀の弾丸」な解決策があるようで実は無いことを実感しました。単純に技術で出来る出来ないを超えた法規制の話、その奥には、国家の成り立ちや歴史も踏まえて、過去からの文脈が地続きで色々と構築されている世界でした。それは、触れていいかも分からないほど、いくつもの課題が積層された、とてつもなく大きな課題でした。

課題が顕在化していく過程で、自分達はデジタルアイデンティティに関連する、とても大きな根源的な課題に取り組んでいるんだということを認識し始めました。そして、この重要性は、社内外を問わず、誰に説明しても、全然、誰も表層の奥底にある本質的な課題に気づいていませんでした。私達が見えている、今後、来るであろう不可逆な未来に、誰も気づいていないということも実感していました。その事実に、最初は一瞬、怯みました。

ただ、『自分達だけが発見していて、誰も発見できていない、または発見してもスルーする社会課題がそこにあり、巨大な課題ではあるが、それを解決できるかもしれない技術と経験と、何より、不確実性が高いモノゴトへの取り組み方を知っている私達のチームがそれを発見した。』、その状態を自覚しているのに、見て見ぬふりができるほど、大人でもなく、子供でもなかったんですよね。笑

私達がやらなくても、いずれ他の誰かがこの課題の解決に取り組み、デジタルIDやKYCサービスを構築し、それがAWSやAzureのように当たり前に存在する世界が訪れるでしょう。別に、人類の歴史からみても、それが、私達でなくてもいいのだと思います。時代が求める瞬間に、たまたまコンディション良く、そこに居ただけかも知れません。ただ、私達のチームなら、ディストピアやEvilにならずにこの領域に取り組める。その確信がありながら、誰かにこの領域を、特に表層だけ見聞きして取り組む人達にこの領域を、思考停止して委ねることはできませんでした。気付いていたのに挑戦せず、後で、その仕組みを利用する生活者としての私達自身も、何かを後悔するのは嫌だと思ったのです。

STRIVEが投資する決め手となったTRUSTDOCKの価値

四方:初めて千葉さんとお話したのは、2018年の終わり頃でしたね。

千葉:そうですね。STRIVEさんの投資の決め手はなんだったのでしょうか。

四方:TRUSTDOCKがターゲットとする本人確認のマーケットは、グローバルで2022年で2兆円規模にまで拡大すると言われています。また、国内では顕在化している部分だけでも約1,000億円規模とみられ、事業者からの新たなニーズがこれから創出される成長市場であるという仮説をもっていました。

当時、海外ではFacebookの情報漏洩が問題視され、その流れを受けてヨーロッパでは規制が強まったり、金融業界においても似た動きがみられました。おそらくアジアにもこの流れがきて、マーケットとして大きな変革が起きるのではないかと考えていました。この時、TRUSTDOCKさんほど「WHY NOW」がここまで明確な会社はないだろうと確信しました

髙田:四方が今言ったとおり、世界金融危機等が原因で金融規制が強化され、データ保護規制も業種を超えて厳格化された結果、企業にとってコンプライアンスコストが非常に大きな負担になりました。本人確認規制も業種ごとに準拠すべき法律が異なり、内製コストが高くて作業が煩雑という課題が顕在化していました。そうした状況のもとで、RegTech、つまり規制に関連した課題をテクノロジーを利用して解決する仕組みが注目され始めました。

国内では、犯罪収益移転防止法等の法改正によりeKYCソリューションの提供が可能となり、この領域で事業を始めるにはまさに完璧なタイミングだったのではないでしょうか。

TRUSTDOCKさんは、RegTechという領域で本気で戦っていらっしゃいます。KYCだけではなく、ユーザー側のデジタルIDを社会実装していくという大きな構想を持たれていて、社会的に非常に意義のある会社だと思っています。

千葉:ありがとうございます!弊社はみんな、褒めると伸びる子です!笑

同じベクトル、時間軸で未来を見据えるSTRIVEとのタッグ

髙田:毎月ミーティングをしていますが、法律ごとに求められる対応の違いも熟知されていて、それをプロダクトに落とし込む技術力もある。経営陣やメンバーの方々のレベルの高さにはいつも驚かされます。

ロビーイングにも注力されていて、国内行政機関だけではなく、国際的なネットワークも構築されています。海外の最新情報から日本の展開を先読みする力、デジタルIDという将来を見据えて構想を持つ力など、非常にパワーがある企業だと思っています。私は弁護士でもありますが、法規制に関しても、千葉さんをはじめとした経営陣の皆さんとのディスカッションを通じて改めて学ぶことも多いです。

四方:投資検討の際に、千葉さんが「僕らはSaaS事業者ではない」とおっしゃっていたのが印象的でした。SaaSではなく”インフラ”を創っているんだというお話には、TRUSTDOCKの未来を感じました。

千葉:STRIVEさんとタッグを組もうと思ったのは、私たちが目指す未来を、同じベクトル、同じ時間軸で見てくださっていると感じたからなんです。いろいろな投資家の方と話していると、近視眼的に見られて、「金融業界のためのソリューションを作る会社」と理解されることが多いです。もちろん、金融業界も重要ですが、あらゆる手続きや取引がデジタル化する、今後のデジタル・ガバメントでは、それもワンオブゼムであり、「eKYC」それ自体も、私たちからすると登る山の一合目の話なんです。金融機関にツールを導入したらゴールな会社ではなく、私達は、身元証明の第三者機関になるために山を登っているので。

一方でSTRIVEさんは、デジタルアイデンティティの基盤を確立したいという、登る山の頂上を見て評価していただいているので、非常にありがたいです。たまに技術のディティールばかり質問してくる投資家もいますが、スナップショットで社外に可視化している内容は、半年後には変わっている世界において、山の登り方は極論、サバイブするだけの話であり、そのHOWを柔軟に選択できる自信はあります。重要なのは、ブレずに目指す頂点にステークホルダー全員がコミットできるかだと考えています

髙田:ありがとうございます。STRIVEの支援にどのような印象をもたれていますか?

千葉:私たちは前例がないところで事業展開をしています。APIビジネスを柱に事業展開している企業も、それを支援した経験のある投資家も、STRIVEさん自身も含め、国内には皆無でしょう。特にRegTechは法規制が絡むので、巷に転がる経験則のメソッドやマトリクスがそのまま適用できる、カンタンな事業領域ではありません。

ただ、STRIVEさんは、toC、toBを問わず、幅広いステージの企業に投資されていて、海外投資の実績もあるので、多様な知見をお持ちです。ディスカッションするときに多様な意見をいただけるところに良さを感じています。ロマンティック且つドライに、冷静と情熱の間を行ったり来たりしながら、一緒に道なき道を伴走していただけると期待しています。

四方:今は特に、行政のデジタル化における本人確認の法規制対応に関して議論させていただいています。

千葉:私たちはユーザーも企業も、誰もが規制対応するためのプロダクトやサービスを作る側なんです。そのため、中央省庁・地方自治体などの行政機関とのリレーション構築は初期段階から注力しています。法規制の中身も、弁護士さん等に丸投げするのではなく、原文を自分達で読み解き、人任せにせずに常に当事者として、法規制のその裏側にある背骨を確かめにいきます。そこの手触り感がないと、スナップショットではプロダクト開発ができても、それを進化させていく時に、見誤ります。

今後はデジタル庁も創設される等、行政側のスピードもかつてないほどに早くなっていて、ワクワクしています。所帯も小さいので限界もありますが、もっとコミットしていきたいです。行政側から呼ばれれば、いつでも何かを貢献する自信はあります。

髙田:個人情報を取り扱うため、その管理は論点のひとつです。預かった情報の利活用のあり方を含め、3年毎に更新される個人情報保護法を前提として、どう対応していくのかのディスカッションもしています。また、海外の個人情報の取扱いも含めて、横断的にアンテナを張って、一緒に取り組んでいます。

千葉:まだ基盤づくりの段階なので、たくさんのオピニオンを聞くことが重要だと考えています。名乗る側のデジタルアイデンティティと、確かめる側のKYC&CDD、それらはコインの表裏であり、ある意味、正義と正義のぶつかり合いです。双方に一定の正しさが内包されていて、どちらの主張にも理があります。何かの側面からだけ見て判断して、紋切型な仕様設計をすべきではない領域です。

この領域では、個人側に傾くと「情報銀行」、企業側に傾くと「信用スコア」など、いくつかの概念のラベルがあり、すぐ、皆さん、自分が理解できるフレームワークで物事を考えてしまいがちです。ただ、アイデンティティに関わる領域は、昨日まで称賛されていた話が、明日には非難される話にいつでも変わりうる領域です。社会の変化に迅速に対応できるように、どう仕様設計すべきか、それを組織として構えることが出来る、それがTRUSTDOCKのコア・コンピタンスであり、ストロングポイントです。

時代とともに按配を決める閾値も揺れ動く世界ですので、私達自身も、日々、悩んでいます。多様なオピニオンを集め、その時々で、SFにならない程度に、如何に半歩先の未来を社会実装していくか、多くの議論を重ねながら進めています。我ながら、胆力が必要な領域だなと自覚しています。笑

TRUSTDOCKが構想する、デジタル社会のインフラとなる未来

髙田:海外でRegTechが広まった背景には、行政からの大きな後押しがありました。現在、日本でも新型コロナウイルスの影響もあり、海外と同様の動きが生まれてきていると思います。このトレンドを逃さず、TRUSTDOCKさんが目指す未来を創るべく、これからも日々ご支援していきます。

四方:他のスタートアップや事業者が、TRUSTDOCKさんのサービスでKYC機能をまかなうことで自社のコア技術の開発に注力できる点が、サービスの付加価値のひとつだと思っています。その基盤を固めた上で、デジタル身分証の発行局になるというビジョンを実現することを期待しています。

「TRUSTDOCKのアプリがあるから海外生活でパスポートを持ち歩かなくても大丈夫」となったり、「アジアに参入するときにはTRUSTDOCKと連携しよう」となったりする世界を実現できると、日本を代表するグローバルカンパニーになれるのではないでしょうか。

千葉:ありがとうございます。

今も私は、TRUSTDOCK社を、電気・ガス・水道のようなインフラ企業だと思って経営しています。私達も普段の生活で、「コンセントにケーブルを刺したら電気が流れる」「蛇口をひねったら水が流れる」、それが当たり前で、その裏側で、どれだけ電力会社や水道局の方々が、24時間365日、それらの運用を死守してくれているのか、想像しないと思います。TRUSTDOCK社の経営をはじめてから、インフラ企業へのリスペクトが止まりません。笑
ただ、それでいいとも思っています。事業者の皆さんには、「TRUSTDOCKのアプリやAPIを繋いだら、法規制はよく知らないけど、なぜか法規制に準拠して、KYC/CDDの処理がいつも行えている。」、そんな社会の血流になりたいです。その裏側で、私達自身は、他のインフラ企業の皆さんと同じく、血反吐を吐きながらも、それを死守し続けたいと考えています。笑
そうすれば、AWS等のクラウドホスティングのおかげで、事業者はサーバー管理から開放され、DropboxやFacebook等のイノベーティブなサービスが生まれたように、TRUSTDOCKのクラウドKYCインフラの上に、イノベーティブなサービスが沢山生まれるでしょう。

そして、私達の子供達の世代が起業する時には、国内外問わず、どんなビジネスも法規制を満たして展開できる、普遍的なデジタルアイデンティの基盤として、世界中を支えていきたいです。
Covit-19で世界中が分断し、暗雲が立ち込めていますが、デジタル社会の流通を分断することはできないことを、ウイルス達にも証明したいと思います。

e-KYC/本人確認APIサービス「TRUSTDOCK」