【 #STRIVE勉強会 】企業がこぞって求めるエンジニア人材。採用のコツとノウハウを学ぶ
支援先の方々向けに毎月実施している「STRIVE勉強会」。専門分野のプロフェッショナルの方を招き、各社が実践的に使えるノウハウ・スキルを身につけられる講義とワーク型のイベントです。
12月のテーマは「エンジニア採用ノウハウ勉強会」。エンジニアの採用に苦労している会社が多いなか、採用を成功させるためには、どのような戦略を取るべきなのでしょうか?
今回ゲストとしてお越しいただいたのは、数々のスタートアップでCTOを経験してきた、BULB株式会社の阿部友暁さん。ご自身の経験から導き出された、エンジニア採用のノウハウについてお話いただきました。一部の内容をレポートしていきます。
■エンジニアの採用が大変な理由とは?
2014年にBULB株式会社立ち上げた阿部さんは、ほかにも複数のスタートアップ企業でCTOを兼務しています。関わっている(いた)のは、自社を除いて6社。エンジニア採用の経験を重ねるなかで、失敗体験も成功体験もされています。
まずは、エンジニア採用の経験が豊富な阿部さんに、エンジニアの採用が大変な理由について解説してもらいました。
テクノロジーが進化し続けるなか、エンジニア人材の重要度が増している昨今。エンジニア採用の難易度は、別職種の人材と比べて高くなっています。
では、なぜエンジニアの採用は大変なのでしょうか?
大きく3つの理由が挙げられます。
- エンジニアの人数(母数)がそもそも少ない
- エンジニア職の技術変化が早い
- 経営陣とエンジニアの持つ情報格差が大きい
まず、大変な理由として挙げられるのが、そもそも市場にいるエンジニアの人数(母数)が少ないこと。全体の人数自体は増えていますが、企業からのニーズも高まっているので、結果エンジニアの人数が足りない状況になってしまいます。
加えて、テック業界は他の業界に比べて歴史自体が浅く、経験値が高いエンジニアもあまりいません。
次に、大変な理由として挙げられるのが、エンジニアの技術変化が早いこと。エンジニアがもつべき技術は、日々スピーディーに変化し続けています。そのため、最新技術を知っているエンジニアがいても、明日にはその技術が廃れてしまう可能性があるのです。
常に最新の情報をキャッチアップし続けているエンジニアを探すのは、容易ではありません。
最後に、大変な理由として挙げられるのが、経営陣とエンジニアの情報格差が大きいこと。経営陣は、エンジニアのレベルまで技術の情報や知識をもっていないパターンが多くあります。そのため、面接などでエンジニアと対等に実務の話をするのが難しく、CTOだけに採用を任せざるを得ない状況になってしまうのです。
■エンジニア採用ノウハウのケーススタディ
次に、阿部さん自身の経験をもとにして、テーマごとに採用ノウハウについてお話いただきました。
▼ケース①海外企業からのオファーによる報酬の値上げ
日本国内において、エンジニアの報酬はどんどん上がっています。ただ、世界的に見ると、まだ日本は報酬が低いのが現状です。どのくらいのキャリアをもつエンジニアには、いくら支払うのが妥当なのかーーあまり分からず、手探り状態で進めている会社は多くあります。
BULBでは、外注のエンジニアに対して海外企業からオファーが来たことがありました。エンジニア歴3年、27歳の外注エンジニア。BULBとの契約時は、月額50万円の報酬でした。腕が良く成果が出たため、1年後には月額60万円に。
2年経ったとき、エンジニアから「海外から月額110万円でオファーが来ているから、同額出してもらえないか。それならBULBに残りたい」と交渉されたのだそうです。
そのとき、「正直、月額110万円はシニアや幹部クラスでないと難しい。でも、海外に送り出すのは惜しい」という気持ちでいた阿部さん。結局、その金額を報酬として支払える(といっても余裕があるわけではない)、知り合いの会社に紹介しました。
阿部さんは「グローバルな市場のなかで、日本が試されている一例だと思います。こういった事例は、今後さらに増えていくのではないでしょうか」と話します。
この報酬問題は「日本のマーケットサイズが、エンジニアに高額報酬を支払えるくらい成熟していないから起こった」とも見て取れます。今後、日本のエンジニアの報酬が海外レベルに高まると、スタートアップ企業はサービスを作り出せなくなる可能性も。まず、人材に大きな投資ができるよう、ビジネスモデルの構築や見直しからスタートするべきなのかもしれません。
▼ケース②地方での採用の高いコストパフォーマンス
熾烈な競争が繰り広げられている、都心部のエンジニア採用。優秀なエンジニア人材を採用するには、高い金額がかかります。予算を抑えて採用するため、阿部さんは「都心部よりも地方のほうが採用コスパが高いのでは?」という仮説のもと、札幌での採用にチャレンジしました。
採用活動で使ったのは、ビジネス特化型SNS「Linkedin」と「Wantedly」です。「Linkedin」では、「札幌 IT」といったワードで検索をかけ、ヒットした人材にひたすらスカウトメールを送信。結果的に、シニアエンジニアを2〜3名採用しました。
「Wantedly」では、「札幌 スタートアップ」といったワードでの採用枠を総取り。そもそも札幌で「Wantedly」を利用しているスタートアップ企業が少なかったため、効果的なアプローチができました。月間で30名ほどから応募が来る結果に。
いずれも面接はWeb会議、採用が決まったらリモートワークという流れです。
阿部さんがこの施策でかけたコストは、「Wantedly」の月額料金3万円と、採用に関わる人の人件費のみ。都心部なら、一人採用するのに、人材紹介や媒体を使って100万円〜200万円ほど必要です。時間や労力はかかりますが、地方での採用は高いコストパフォーマンスを上げています。
▼ケース③リモートワーク制度運用におけるコミュニケーション
エンジニアのあいだで常識になりつつある「リモートワーク」という働き方。社内でなくても業務を進めやすいエンジニア職は、リモートワークとの相性がいい傾向があります。そのため、エンジニアが職探しをする際、リモートワークがひとつの基準になっているのです。
リモートワークのスタイルは、フルタイムや部分的、部署限定、週1出社などさまざまです。スタイル問わずリモートワークを取り入れていない会社は、エンジニアを採用するのが困難になるといえるでしょう。
もちろん、エンジニア全員がリモートワークをしたいわけではありません。ただ、リモートワークを導入している企業は、働き方に対して柔軟な考えをもっている場合が多くあります。そんなリモートワークとの向き合い方を見て、会社の思想を判断し、職選びをするエンジニアもいるのです。
そうはいっても、リモートワークの導入を考えたとき、たくさんの課題が立ちはだかります。コミュニケーションの取り方、労務管理、一人で作業をする孤独感、私生活とのメリハリ、モチベーション管理など。こういった課題は、一つひとつ解決していかなければなりません。
例えば、コミュニケーションの課題。リモートワークをしていると、社内で働くよりも、コミュニケーションが取りにくくなります。すると、情報を共有しきれず、チームで情報格差が発生してしまう場合も。意思疎通が足りず、信頼関係が崩れることもあります。
そこで意識づけたいのが、リモートワーカーありきでコミュニケーションを取ること。社内で出た業務に関する会話は、都度Slack(※)で流すなど、文書化することがポイントです。
阿部さんは「『出社する人がえらい』『出社しない人が悪い』といった空気が出たら終わりです。だって、リモートワークをしているエンジニアは、だらけているのではなく、働き方の一種として取り組んでいるのだから。全員が平等に情報共有される空気を作るため、まずはトップが社内に向けて発信していかなければなりません」と言います。
(※Slack:ビジネスコミュニケーションツール)
■エンジニア採用に答えはない。ただ愚直に挑戦するのみ
サービスを成長させるために必要不可欠な、エンジニアという人材。ニーズは増しており、優秀なエンジニアを採用するのに一筋縄ではいきません。
「エンジニアを採用するうえで、『これさえやれば採用できる画期的な施策』のような魔法はありません。運任せではなく、やるべき手法を愚直に粛々と行うのみです」と話す阿部さん。
「自社に合うエンジニアを採用するために、どのようなアプローチを取るべきか」。今回の阿部さんの話を参考にしながら、何度も繰り返し検証してみるのがいいかもしれません。